2010 年 51 巻 4 号 p. 193-198
症例1は26歳,女性,左頬部に25mm大の落屑を伴う紅斑を認め,直接鏡検が陽性,顔面白癬と診断した.マイコセル寒天培地25℃の培養で集落を分離し,巨大培養とスライド培養の形態学的特徴から Trichophyton mentagrophytes と同定した.さらにリボゾームRNA遺伝子 (rDNA) のinternal transcribed spacer 1 (ITS 1) 領域のDNA塩基配列の解析の結果,分離株は Arthroderma vanbreuseghemii と同定された.飼いネコ9匹のヘアブラシ培養検査で,2匹からの分離株は A. vanbreuseghemii と同定され,ネコが感染源である可能性が示唆された.症例2は11歳,男児,左眼囲,鼻根部,左頬部の手掌大の紅斑落屑局面を認め,直接鏡検が陽性,顔面白癬と診断した.6週間前からステロイドを外用していた.分離株は A. vanbreuseghemii と同定された.飼いネコ2匹と飼いイヌ1匹より真菌培養を試みたが,同様の真菌は検出されなかった.2000年以降,わが国で分子生物学的に A. vanbreuseghemii と同定された白癬の報告は自験例を含めて16件25例あったが,12例は顔面に発生しており,11例はステロイド外用歴があった.本菌は顔面白癬の原因菌の1つとして重要と考えた.