1989 年 30 巻 4 号 p. 260-265
Coccidioides immitis は coccidioidomycosis の原因菌で, 真菌の中でも最も病原性の強い真菌として知られている.
本症は米国西南部 (カリフォルニア, アリゾナ, テキサス, ネバダ, ニューメキシコ, ユタの各州) の半砂漠地帯, メキシコ, アルゼンチンをはじめとする中南米諸国に発生する, 南北アメリカ大陸に限局した風土病である.
C. immitis は土壤中に生棲し, 乾期になると菌糸 hypha は分節型分生子 arthroconidium に変り, 風や土木工事 (興味あることに農地になると C. immitis は生棲できない) などで空中に舞い上がる. 患者は通常この舞い上った arthroconidium を吸引し, 肺に初発病巣を起こす. 肺組織内で arthroconidium は腫大し, 球状体 spherule を形成, その成長と共に spherule 内に多数の内生胞子 endospore (8,000~25,000個位) を産生し, 感染組織内にこれら endospore を放出する. 以後これら endospore は腫大し, spherule となり同じサイクルを繰り返す.
現在まで多くの C. immitis の感染実験が報告されているが, 興味あることは実験動物 (主にマウス) に対する接種菌数が他の微生物の感染実験に比べ, 極めて少数の菌数で感染が成立することである. 通常100イロンマ内の菌数でマウスに感染が成立し, 全身感染へと進んでいくのである.
この論文ではマウス体内で arthroconidium が spherule に変り, endospore を放出する寄生環 parasitic cycle の各発育段階に対して生体はどのような組織反応を示すかについて述べ, 何故小数の接種菌数でマウスに全身感染を発症し得るか, について検討した.