2016 年 43 巻 6 号 p. 733-738
症例は50歳代男性.主訴は頭痛,左視野障害,既往歴に特記事項なし.運転中に突然左視野障害,頭痛,嘔気が出現したため当院来院.頭部コンピューター断層撮影にて両側小脳,右後頭葉,左前頭葉に脳梗塞を認め,当院神経内科に入院した.塞栓源検索のため経胸壁心臓超音波検査で僧帽弁前尖左房側に18mm大の可動性のある異常構造物を認めた.僧帽弁は逸脱なく,逆流もごく軽度であった.形状から乳頭状弾性線維腫を疑い摘出術が検討されたが,抗凝固療法にて経過観察中の経胸壁及び,経食道心臓超音波検査で異常構造物は,ほぼ消失した.感染兆候はなく,血液培養陰性で,感染性心内膜炎は否定的であったため非細菌性血栓性心内膜炎と診断し,外科治療は回避された.本例では非細菌性血栓性心内膜炎に多く認められるとされる悪性腫瘍や敗血症,自己免疫疾患などに伴う凝固亢進状態を認めなかった.以上,明らかな基礎疾患を有しない非細菌性血栓性心内膜炎の1例を経験し,その診断,治療方針の決定に心エコー図法による詳細な経過観察が有用であった.