抄録
目的:心筋虚血を発症した際,早急な再灌流により心筋の壊死を回避するため,心筋虚血部の範囲と程度の迅速な同定が虚血性心疾患の診断とその後の的確な治療において重要となる.本論文では,複数のブタ心臓において,虚血後の数秒間で,心筋の収縮応答の伝播速度が低下することを超音波計測により定量的に検出する.方法:開胸ブタ5頭の心室中隔壁に関して超音波計測し,その後,左前下行枝を駆血することで心室中隔壁を虚血状態にして数秒以内に再度計測を行った.取得RF信号に位相差トラッキング法を適用し,心室中隔壁内に設定した約3,000点で各々微小振動速度を求めた.各点での微小振動速度波形に相互相関法を適用し,収縮応答の伝播を遅延時間の空間的な推移として描出した.結果:開胸ブタ5頭の心室中隔壁において,心筋収縮応答は心基部側から心尖部側へ伝播することが確認された.伝播速度は,正常状態では2.7±0.5 m/sでほぼ一定であるのに対し,冠動脈駆血から約5秒後では1.9±0.5 m/sと約31%低下し,さらに約7秒後においては1.4±0.3 m/sと約50%低下することが超音波により計測された.結論:ブタ5頭に関して,正常状態と虚血状態にかけての約7秒間に心筋収縮の伝播速度が約50%低下することが検出されたことから,心筋虚血部を超音波によって非侵襲的に同定できる可能性が示唆された.