2019 年 46 巻 1 号 p. 17-24
心臓に対する超音波の臨床応用には約70年の歴史があるが,その大きな転換期は,バッテリーで駆動する小型の携帯型超音波診断装置の登場である.これにより,心エコー図検査を行う場所が検査室外に大きく広がっただけでなく,それまではそれを専門の生業とする医師や技師が行う検査であったのが,救急医や麻酔科医,プライマリケア医など心エコーを専門としない医師が心エコー図検査を利用するようになった.そして,このような目の前の患者に対して,医師が病態の評価やマネージメントあるいは処置のガイドのために行う超音波検査をPoint-of-Care 超音波(POCUS)と呼ぶようになった.POCUSの心エコー図検査は,救急医や麻酔科医など心エコーの非専門家がプロトコールに即して施行するfocused cardiac ultrasound examination(FoCUS)と,系統的心エコー図検査の高度な知識と技術を有する循環器内科医がベッドサイドで行うlimited echocardiographyに大別される.FoCUSは,そのプロトコールや評価法がほぼ確立され,その効果を証明するエビデンスも蓄積されつつある.本邦においても普及しつつあるが,教育システムが確立されているとはいえず,医学生や研修医に対する教育をどうするかについても,今後議論が必要であろう.循環器分野のPOCUSが広く普及しても,聴診が不要になるということはない.むしろ,身体診察の流れの中で視診,触診,聴診に加えて,エコー診を加えることが,患者にとって大きな恩恵をもたらすことになるだろう.