日本列島には秋の終わりから早春にかけて,2種の長距離移動性のガン類が越冬と中継のために飛来する.南北に長い日本列島内で,代表的な越冬地および中継地8地点について,主要な餌資源植物の同定および窒素含量を時系列で解析した.日本におけるガン類の餌資源は,人為起源の農作物の収穫落ちこぼれ(稲落ちモミ,大豆種子,トウモロコシ),イネのヒコバエおよび畦の草本類に加えて,渡去直前には地域によっては麦類の若葉,水田の雑草類であった.これらの越冬地および中継地における餌資源植物の窒素含量は,とくに越冬後期と中継地において顕著に増大する傾向が見いだされた.餌植物に含まれる窒素の含量は,既往に北極圏ツンドラ繁殖地で報告されている値に比較しうるほど高く,ガン類の長距離移動中の適地選択条件の一つである可能性が示唆された.長距離移動に伴った高窒素栄養摂取の生態学的な意義付けを,卵に転換する体たんぱく質の解析例および飼育実験と野外摂食によるエネルギー効率の二つの視点からの既往の資料に基づいて行なった.