日本鳥学会誌
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原著論文
ウトウから餌略奪するウミネコのハビタット利用:明るさ,草丈とウミネコ同士の攻撃の効果
田中 遊山伊藤 元裕綿貫 豊
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2009 年 58 巻 1 号 p. 46-54

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抄録

ウミネコLarus crassirostris は日没後に給餌のために嘴に魚をくわえて帰巣してきたウトウCerorhinca menocerataから餌略奪する.その餌略奪成功はハビタット(草丈)と日没後急に減少する明るさとによって変わる.したがって,餌略奪しようとまちうけているウミネコのハビタット利用はウミネコ1羽あたりの餌略奪成功によって変化すると予想される.ウミネコ1羽あたり略奪成功率に影響する要因とそれがウミネコの分布にあたえる効果を探るため,北海道天売島において,おのおのの明るさ(明るい (>1 lx),薄暗い (0.1-1 lx),暗い (<0.1 lx) おのおののハビタット(高草丈区,低草区および裸地区)において,魚をくわえて着地したウトウ数,地上で待っているウミネコ数,餌略奪行動とウミネコ同士の威嚇行動を記録した.ウトウが攻撃される率は裸地区や低草区で,特に明るい時間帯に高く,攻撃されたときに餌を失う率は明るい時間帯でウミネコの略奪参加数が多いときに高かった.裸地区では攻撃率が高かったがウトウ着地数が少なくウミネコ数が多かったので,結果的にウミネコ1羽あたり略奪成功率は裸地区で低く,低草区と高草区では明るいときに高かった.予想と異なり,ある明るさあるハビタットにおける略奪成功率とそこで待ち伏せしていたウミネコ数には関係がなかった.略奪成功率が高い場所と明るさにおいてウミネコ同士の威嚇頻度が高かった.個体識別したウミネコの観察によると,オスはメスよりも場所定着性が高く,オス9個体のうち3個体だけが略奪成功率の高いハビタットで繰り返し餌略奪を行った.以上のことから,餌略奪成功率の急速な変化と攻撃性の個体変異が,餌略奪するウミネコの分布に影響する要因と考えられた.

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