日本鳥学会誌
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総説
鳥類の一腹卵数の進化:熱帯性鳥類の免疫機能への投資や温度による制約
松井 晋
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2014 年 63 巻 2 号 p. 235-248

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抄録

鳥類の一腹卵数には緯度勾配があり,熱帯性鳥類は一腹卵数が少ないことが,1940年代に鳥類学者によって既に記載されており,一腹卵数の変異を説明する仮説も提唱されていた.しかしその後,鳥類の生活史進化を検証した多くの研究は,世界の鳥類種の25%以下が分布する北半球温帯域で実施されてきたため,熱帯性鳥類において少ない一腹卵数が進化したメカニズムはまだ解明されていない.鳥類の一腹卵数の緯度勾配は,食物資源量や巣における卵や雛の捕食圧の緯度間の違いだけでなく,これまであまり注目されてこなかった,卵の発育に直接かかわる外温度による一腹卵数の制約,免疫機能・代謝・内分泌システムといった生理システム間に作用するトレードオフ,免疫系の活性化過剰や自己免疫反応が生じるリスクを防ぐ生理的制御ネットワークが関与している可能性がある.鳥類の一腹卵数の個体内の可塑性や,個体群間や種間の変異が進化するメカニズムを包括的に理解するため,(1)外気温が卵の生存に与える直接的な影響の季節変化や緯度勾配示した研究と,(2)生活史形質,選択圧,生理的コスト(例,寄生者に対する免疫防御)の関係性を扱った研究を紹介し,地域で特有の環境要因や生理的要因が一腹卵数の変異に及ぼす影響を複合的に理解する重要性を議論した.

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© 2014 日本鳥学会
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