日本鳥学会誌
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原著論文
ウトウの卵容積には餌の栄養段階ではなく親の栄養状態が影響する
鈴木 優也伊藤 元裕風間 健太郎新妻 靖章綿貫 豊
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2014 年 63 巻 2 号 p. 279-287

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抄録

プランクトン食ウミスズメ科鳥類では,繁殖前に低い栄養段階の餌(カイアシ類)を食べたメスが大きな卵を産む.北海道天売島のウトウ Cerorhinca monocerata は魚食性であるが,春にはオキアミも食べる.卵容積に影響する要因を調べるため,2010,2011,2012年に抱卵中のオス・メスを捕獲し,その体サイズと余剰栄養指標,胸の羽毛と血球の窒素安定同位体比(δ15N,栄養段階の指標)を調べた.加えて,いつの時期に食べた餌が卵形成に利用されるか推定するため,2011年と2012年には別の巣から産卵後1日以内の卵を採取し,卵黄,卵白および卵膜のδ15Nとδ13C(炭素安定同位体比)と抱卵中のメス親の胸の羽毛,血球および血漿のこれらの値との関係を調べた.また,産卵・抱卵期に胃洗浄法によって他の個体から胃内容物を採取し,食べていた餌種を直接調べた.余剰栄養指標・体サイズの大きいメス,またつがい相手の体サイズが大きいメスほど大きな卵を産んでいた.産卵~抱卵時期には栄養段階の低い餌(オキアミ)と高い餌(魚)を食べていたが,造卵期の栄養段階を反映する血球のδ15Nの個体変異は卵容積指数に影響しなかった.また換羽期の栄養段階を反映する胸の羽毛のδ15Nも卵容積指数と関係なかった.卵黄,卵白および卵膜のδ15N,δ13Cは,換羽期と産卵前のいずれの時期に食べた餌の栄養段階とも関係が認められなかった.

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© 2014 日本鳥学会
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