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伊豆半島南部のヤマガラと伊豆諸島三宅島のヤマガラの採食習性に関する比較研究
樋口 広芳
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1975 年 24 巻 97-98 号 p. 15-28

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抄録

1972年4月から1975年3月まで,南伊豆地方のヤマガラと三宅島のヤマガラの採食習性に関する比較研究を行なった。調査は主として次のようにして行なった。まず採食場所•食物•採食方法などをそれぞれいくつかの種類に分け,毎月一定回数一定のコースを一定の速度で歩きながらその種類別に観察数を記録していき,のちに時期毎の観察総数で割り,それぞれに対する時期別の観察頻度を算出した。
調査結果の概略は次のとおりである。
1.採食場所 冬季以外は両地域のヤマガラ共,枝葉に集中して採食する傾向が見られたが,この場合,南伊豆ヤマガラでは森林の上中部を,三宅島ヤマガラでは森林の中下部を利用することが多かった.また三宅ヤマガラでは南伊豆ヤマガラに比べて地表部を利用することが多く,特に秋冬季にはそれが著しかった(Table1, Table 2)。
両者の採食場所に見られたこれらの違いの原因は,一部は調査環境の違い(これは両者の生息環境の選好性の違いにも基ずいている)に,一部はその生息環境の選好性の違いと関連した近縁種シジュウカラとの生息関係に, また一部は両者の食習性の違い(特に三宅ヤマガラにおける冬季のシイの実食)にあると考えられた。
2.採食方法 両地域のヤマガラ共,枝葉についている木の実をとる時には「つりさがり法」と「とびつき法」を,枝葉の昆虫をとる時には「つりさがり法」を最も多く用いていた。(Table3)。食べる時には両者共,木の実の場合には両脚で,昆虫の場合には片脚で必ず押えた。また昆虫を押える際に主にどちらの脚を使うかは,両地域のヤマガラ共それぞれの鳥で決まっているように思われた。このように採食方法に関しては両地域のヤマガラの間で相違よりもむしろ類似の方が目立ったが,この習性は生息場所が変っても殆ど変ることがない,ヤマガラという種に共通のものであろうと考えられた。
3.食物 南伊豆ヤマガラでも三宅ヤマガラでも, 4月から7月頃までは昆虫など動物質のものを多く食べていたが,秋冬季には木の実など植物質のものにもかなり依存していた(Table4,Table6)。この傾向は特に三宅ヤマガラで著しく,この島のヤマガラでは殊にスダジイの堅果を多食するのが非常に目立った。シイの実に対する依存度に見られたこの違いは,島という生態的多様性に乏しい環境下にある三宅ヤマガラの方が,食物の不足しがちなその時期に南伊豆ヤマガラよりもこの実に多く頼らざるをえない状況にあるため,と思われた。
4.貯 食 この習性は両地域のヤマガラで見られたが,観察のしやすさも影響してか,三宅ヤマガラで見る機会が多かった。三宅島ヤマガラでは貯蔵行動は8月から2月までの間見られ,対象となっていた食物はスダジイやエゴノキなどの堅果であった(Table8)。また冬から春にかけて彼らが食べていたシイの実は,その殆どすべてがこの貯えていたものであると考えられた。貯蔵行動は飼育下では南伊豆ヤマガラでも三宅ヤマガラでも同様に見られ,これは生後1週間以内に野外の巣から持ち帰り親鳥の行動を見せずに飼育していた鳥でも見られたことから,学習を経ずして現われる行動であることが推察できた。

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