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伊豆半島南部のヤマガラと伊豆諸島三宅島のヤマガラの繁殖習性に関する比較研究
樋口 広芳
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1976 年 25 巻 99 号 p. 11-20

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抄録

1972年から1975年にかけての4繁殖期にわたり,伊豆半島南部のヤマガラと伊豆諸島三宅島のヤマガラについて繁殖習性に関する比較研究を行なった.繁殖率に関する調査には巣箱を用いた.得られた結果は次のとうりである.
1.繁殖期初卵日の時期的分布を指標にして繁殖期を比較したところ,両地域のヤマガラの間には大きな違いはなかった.南伊豆でも三宅島でも,最も早い初卵は3月下旬に,最も遅い初卵は6月上•中旬に観察され,また,初卵日の時期的分布における最初の大きなピークは4月上•中旬に,次のそれ程目立たない小ピークは5月下旬に見られた(Fig.2).初卵が5月10日以前に産まれた繁殖例を「前期繁殖」,5月11日以降に産まれた繁殖例を「後期繁殖」と区別した.
2.一腹卵数南伊豆のヤマガラでは,最も普通に見られた一腹卵数は6個か7個であり,平均は6.2個,上限と下限は8個と3個であった(Fig.3).いっぽう三宅島のヤマガラでは,最も多く見られた卵数は4個で,平均は3.9個,上限と下限は6個と3個であった(Fig.4).
3.卵重と雛重卵重と雛重は,成鳥の大きさに対応して三宅島のヤマガラの方が大きかった(Table2,Fig.5).ただし,成鳥の体重に対する卵重の比は,三宅島のヤマガラの方が小さかった.
4.抱卵日数と育雛日数抱卵日数(終卵産卵日から最初の雛のふ化日)は,どちらのヤマガラでも約14日であった(Table 3).育雛日数(最初の雛のふ化日から最初の雛の巣立ち日まで)の平均は,南伊豆のヤマガラが18.3日,三宅鳥のヤマガラが19.0日で,三宅鳥のヤマガラの方がわずかに長かった(Table 4).
5.繁殖成功率ヘビなどによる被捕負例を含めた南伊豆のヤマガラのふ化率と巣立ち率は,それぞれ約75%と約80%であった.ただし被捕食例を除いた場合は,ふ化率,巣立ち率とも95%以上であった(Table 5).いっぽう,三宅島のヤマガラでは,ヘビやヒメネズミがいないためからか,卵や雛の被捕食例は全くなく,ふ化率97.1%と巣立ち率97.0%が観察された(Table 6).三宅島のヤマガラにおけるこれちの値と,南伊豆のヤマガラにおける被捕食例を除いたそれらの値のあいだには,有意な差が認められなかった.
6.繁殖密度三宅島のヤマガラの繁殖密度は南伊豆のヤマガラのそれと比べて著しく高かった.道の両側各50mを調査範囲とした1km当たりの番数は,南伊豆で5~6番,三宅島では10~15番であった(Table 7).南伊豆のヤマガラと三宅島のヤマガラとの間に見られた1腹卵数の違いは,この繁殖密度の著しい違いと密接に関連しているものと考えられた.

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