日本鳥学会誌
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同所性オオヨシキリとコヨシキリの種間関係
香川 敏明
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1989 年 37 巻 3 号 p. 129-144

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抄録

1) 1982-87年の繁殖期に,本州中央部の菅平湿原(北緯36°20′,東経138°20′)において,同所性 のオオヨシキリとコヨシキリの種間関係を調べた.とくに1987年には,両種の繁殖,行動圏,種間関 係の行動を詳しく調べた.
2) オオヨシキリはコヨシキリより早く渡来した.渡来の順はまずオオヨシキリの雄,次いでオオヨシキリの雌とコヨシキリの雄,最後がコヨシキリの雌の順であった.
3) 調査地における番い雄の滞在期間は,両種とも平均60日間であった.コヨシキリはオオヨシキシより定住性が弱く,行動圏の移動がよく見られた.
4) 繁殖成功率(産卵数に対する巣立ちひな数の割合)は,オオヨシキリが40.4%,コヨシキリが61.1%であった.
5) 行動圏が確立していく過程で,両種の間に時間と場所の分離があった.コヨシキリはオオヨシキリと時間をずらせて,オオヨシキリのすき間やオオヨシキリのいない場所に行動圏を定めた.
6) 両種の生息環境の選択に垂直的な分離があったが,ヨシは両種が共通に選択した.巣位置の平均の高さは,オオヨシキリが1.02m,コヨシキリが0.63mで,有意差が認められた.
7) 両種のなわばり行動に,鳴き合い,追いかけ,戦いの3つのタイプがあり,とくに,オオヨシキリには鳴き合いが多く見られた.囀り地点として,オオヨシキリは高い樹木をよく利用し,コヨシキリはヨシをよく利用した.
8) 行動圏と囀り地域の大きさとは,オオヨシキリの方がコヨシキウよりかなり大きかった.コヨシキリの雄の中に遠出をしたり,複数の行動圏を持つ個体があった.
9) オオヨシキリは,コヨシキリが行動圏へ侵入すると,攻撃性を示し,常に優勢であった.いっぽう,コヨシキリはオオヨシキリの侵入に対して,これを効果的に追い出すことができなかった.
10) オオヨシキリとコヨシキリの混在地では種間なわばりによる共存ではなく,コヨシキリの方が時間をずらせてオオヨシキリの行動圏の境界へ入り,オオヨシキリとの種間なわばりによる対抗をさけて,植生を利用してかくれひそみながら,繁殖成功をとげる方法で共存している

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