日本鳥学会誌
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越冬期におけるナベヅル Grus monacha の群れ構成, 分散様式およびなわばり行動
大迫 義人
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1989 年 38 巻 1 号 p. 15-29

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抄録

1)1980年から1984年にかけて,鹿児島県の出水•阿久根地方で越冬するナベヅル Grus monacha の群れ構成,分散様式およびなわばり行動について調査した.
2)早朝荒崎ねぐらを飛び立ったツルのうち,大半はねぐらに隣接する人工給餌場に戻り,そこに日中留まっていたが,約10%の羽数のツルは給餌場外(周辺部)で昼間を過ごし,夕方にねぐらに戻った.そして,夜はすべての個体が共同ねぐらに集結した.
3)周辺部での5日間のセンサスで,単独個体1羽(1.2%)と2-102羽の大きさの82群(98.8%)を識別した.9羽以下の群れの内,構成羽数は多い順に3羽(36.1%),2羽(16.9%),4羽(14.5%),6羽(3.6%),5羽(2.4%),8羽(1.2%),9羽(1.2%)であった.成鳥2羽から成る群れはつがい,それに1-2羽の幼鳥を伴う3-4羽の群れは家族群と考えられた.5羽以上の大きな群は,単独の亜成鳥,成鳥およびつがい,家族群で構成された混合群であった.
4)周辺部での群れの終日追跡で,なわばり,定着,放浪の3つの分散様式が観察された.なわばり群と定着群は,つがいと家族群に限られ,放浪群には,単独個体と大群も含まれた.なわばり群の中には,隣のなわばり群には劣位であるが,他の群れは追い出す半なわばり群が存在した.いっぽう,給餌場では,排他性はあるが定着性の低い,または定着できない排他群が観察された.
5)なわばり行動として警戒,威嚇接近,攻撃および対立が記載された.雌雄でなわばりを防衛したが,攻撃は主にオスが担当した.あるつがいのなわばりの大きさは,54,790m2であった.人間の妨害でなわばりを放棄した例もあったが,数年に亘って維持された例もあり,その永続性が示唆された.
6)親より独立した亜成鳥と配偶相手を亡くした単独成鳥は,混合群の中でつがいを形成し,一部のつがいは混合群を離れてなわばりを持つと考えられる.
7)ねぐら近くでは給餌を行い,周辺部では餌が不十分であると考えられるため,なわばりを持つ群れは少数(出水個体群の8.4%以下)であったが,なわばりを持つなら,防衛の効率の点でつがいまたは,家族単位が最も安定していると考えられる.

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