日本鳥学会誌
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京都の市街地におけるエナガ群の分裂と再編成
江崎 保男宮沢 望先川 朱音
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1991 年 40 巻 1 号 p. 1-13

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抄録

京都大学周辺の市街地では一年を通してエナガを見ることができる.この地域のエナガの社会構造を調査した.
1)調査地は小面積の山林,大学キャンパス,住宅地からなり,山林外の地域には全面にわたって樹木がまばらに生育している.山林内で1グループ,山林外で別の2グループのエナガが越冬し,繁殖をしていた.
2)エナガの冬期群は構成が安定しており,群れの行動圏は空間的に分離していた.早春に冬期群はつがいに分裂し,各つがいは分散して冬期群の行動圏内に営巣した.全体の半数以上の巣でヘルパーが認められた.ひなの巣立ち後には,同じグループに由来する複数の家族が一緒になり,一つの群れとして活動していた.群れの構成員がつがい単位で完全に分離している時期は繁殖最盛期の2-3か月に限られており,繁殖期にはつがいに分離するものの,エナガが本質的にグループ生活者であることが示唆された.
3)グループの構成員に関する閉鎖的な側面とともに,繁殖期にはグループ問の個体の移動があることが示唆された.あるグループではヘルパーの一部はおそらく移入者であった.手伝い行動は成鳥が他のグループに加わる機会を与えている可能性がある.
4)調査地内の繁殖成功率は,エナガ本来の生息場所と考えられる樹林地で記録されたものよりかなり高かった.この違いをもたらすひとつの要因は樹林地での重要な捕食者と考えられているカケスが調査地にいないことによると思われる.夏から秋にかけての餌などの資源条件は,山林外では良いとは考えられないので,繁殖成功率が高いことだけでは山林外でエナガ個体群が一年を通じて安定維持されていると予想することはできない.

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