日本鳥学会誌
Online ISSN : 1881-9710
Print ISSN : 0913-400X
ISSN-L : 0913-400X
青森県におけるオオヨシキリの雌の定着パターンと一夫多妻繁殖
浦野 栄一郎
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 44 巻 3 号 p. 157-168,214

詳細
抄録

雌が既婚雄と繁殖する際の不利益として、雄があまり雛に給餌しないことが雛の生存や成長に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。オオヨシキリ Acrocephalus arundinaceus の場合も、一夫多妻の第二巣では一夫一妻巣に比べて、雄による給餌が少ないことが、日本およびヨーロッパの数地点から報告されているが、これが実際に雛の餓死に結びつくかどうかは、調査地点によって異なっている。著者は以前に、石川県河北潟のオオヨシキリの繁殖生態を、より気候の冷涼なポーランドでの報告(DYRCZ 1977, 1981, 1986)と比較し、一夫多妻の第二巣の雛に餓死が集中するかどうかは、気候条件および同じ雄とつがう雌同士の巣内雛期の重複程度と関係することを指摘した(URANO1990b)。この仮説に従えば、河北潟よりも冷涼な北日本のオオヨシキリ個体群では、雄による給餌の雛にとっての重要性が高いと考えられる。このような状況では、雛が餓死する危険を小さくするために、雌は既婚雄よりも独身雄を好んだり、既婚雄を選ぶ場合も雌同士の繁殖サイクルの重複が少なくなるようにつがうことが予想される。
調査は、青森県東部の高瀬川下流域のヨシ原で1989-1990年に行った。6月~7月初めの気温は1989年の方が低かったが、7月中旬以降は両年で差がなかった(Fig.1)。色足環で識別した個体の行動を観察し、巣内容の確認を繰り返し行った。育雛行動は直接観察またはビデオカメラによって記録した。
一夫多妻雄•一夫一妻雄•独身雄の割合は、それぞれ、1989年(計22雄)は14%•64%•23%、1990年(計17雄)は24%•47%•29%だった。
雌の定着パターンには2年間で違いがみられた(Fig.2)。1989年の調査地Aでは、早く定着した雌は既婚雄とではなくすべて独身雄とつがい、もっとも遅く定着した2羽だけが既婚雄とつがって一夫多妻第二雌となった。1990年にはそのような雌同士の避け合いは認められなかった。また同じなわばりに続けて定着した2羽の雌の間に強い対立関係があることが示唆された。同じ雄とつがった雌同士の産卵開始日のずれは、1989年(平均21.0日)の方が1990年(平均15.5日)より大きく(ただし有意差なし)、もっとも早い第二雌の繁殖も、1989年は1990年よりも8-9日遅れて始まった。このため、1989年の第二雌が雛を育てたのは、低温期が過ぎた7月中旬以降だった。
一夫多妻雄の第二巣への給餌頻度は一夫一妻雄よりも有意に低かった(Fig.3上)が、雌雄合わせた給餌頻度に差はなかった(Fig.3中)。雄の給餌分担率は一夫多妻の第二巣で低かった(Fig.3下)。雄の給餌頻度は気温の影響を受けなかった(Fig.4下)が、雌ではとくに低温の時には給餌頻度が低くなり、気温(X)と給餌頻度(Y)との関係は
Y=1.71*(1-exp(-0.59*(X-13.04)))
という飽和型曲線で近似できた(Fig.4上、Quasi-Newton法)。
雌による抱雛時間は雛が小さい時期(日令2-4日)に長く(平均16.9分/時間)、この時期には抱雛時間と気温との間に負の相関がみられた(Fig.5)。
一夫多妻第二巣への雄の給餌は第一巣との孵化日のずれが大きい(23-32日)場合にみられ、ずれが小さい(14-16日)場合には、雄は第一巣の巣立ち雛に給餌していた。
一夫多妻第二巣での、巣内雛の一部の平均死亡消失率(4.0%)および7日令での平均体重(17.4g)は、第一巣の雛(11.7%;18.7g)や一夫一妻巣の雛のもの(6.0%;18.3g)と有意差がなく、第二巣に対する雄の給餌の少なさの、雛の生存•成長への影響は認められなかった。
捕食による繁殖失敗の割合は一夫多妻第二巣で高かった(43%;第一巣と一夫一妻巣はともに17%、ただし有意差なし)。雌あたり平均巣立ち雛数は一夫一妻雌3.7羽、一夫多妻第一雌3.3羽、第二雌3.0羽で、第二雌は一夫一妻雌の82%の雛を巣立たせたことになる(有意差なし)。
一夫多妻雄の第二巣への給餌は少なかったので(Fig.3)、第二巣の雛では栄養状態が悪かったり、餓死する確率が高まる可能性があるが、実際にはそうならなかった。雌は自身の給餌頻度を高めるか、雄により多く給餌してもらうことで雛の餓死を避けることができる。第一雌や一夫一妻雌は雄の援助を得やすいが、第二雌にとっては困難なので、自身の給餌頻度を高めることが第二雌にとって唯一の確実な手段となる。

著者関連情報
© 日本鳥学会
前の記事 次の記事
feedback
Top