日本鳥学会誌
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オオジシギ Gallinago hardwickii の誇示飛翔の日周活動の生態的意義
オオジシギの誇示行動はレック行動であるかの検討
飯田 知彦
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1995 年 44 巻 4 号 p. 219-227,235

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抄録

オオジシギ(Gallinago hardwickii)の誇示飛翔には日周活動があることが知られているが、その行動を引き起こす理由はわかっていない。また、中村•重盛(1990)により、その繁殖形態がレック(Lek)に近い繁殖形態であることが示唆されている。今回、本種の繁殖行動と日周活動について調査を行ない誇示飛翔の生態的意義について考察し、繁殖形態がレックであるかの検討を行なった。調査は1989年と1992年に、広島県北西部の牧場で行なった(Fig.1)。日周活動の調査は、オオジシギが鳴き始め、尾羽による音を伴った急降下から次の急上昇までを1回の誇示飛翔としてカウントし行なった。同様に地上や空中などでの発声が途切れ、次の発声までに2秒以上の間隔があった場合も1回とした。誇示飛翔回数および個体数の小集計は15分ごとに行なった。日の入り時刻から日の出時刻までを夜間とした。
調査地には例年東西に2つの誇示飛翔域ができたが、それぞれAとBとして区別し、その境界に観察ポイントを定め、双方の誇示飛翔数をカウントした。飛行高度は発声や発音から推定した。
調査地には例年東西に2つの誇示飛翔域ができたが、それぞれAとBとして区別し、その境界に観察ポイントを定め、双方の誇示飛翔数をカウントした。飛行高度は発声や発音から推定した。誇示飛翔のピーク時に、誇示飛翔を行なう個体以外の個体が出現し、誇示飛翔域に侵入するのが確認された。この個体は誇示飛翔を行なう個体より間隔があき、不規則で低い"ガッ、ガッ"音を発しながら誇示飛翔域に侵入してきた(Fig.2)。また、誇示飛翔が地上30~40mの高空で行なわれるのに対し、地上5~6mと低空であった。1992年5月3日の夕方のピーク時に、この侵入個体がBの誇示飛翔域に侵入し地上に下り、そこへ上空から"ザザザ"音を発しながらBの誇示飛翔域の個体が下りてきて、"ズビー、ズビー"音を発しながら侵入個体の上に乗ろうとした。侵入個体はすぐに飛び去ったため成功しなかったが、この行動は交尾行動と思われた。
中村•重盛(1990)は、捕獲による形態調査とテレメトリーによる行動調査から、誇示飛翔を行なう個体が雄であることを確認している。これと今回確認された交尾と思われる行動から、誇示飛翔のピーク時に雄の誇示飛翔域に低空で侵入する個体は、雌と思われた。
調査地では誇示飛翔はほとんど夜間にしか行なわれず、日中誇示飛翔が行なわれることは極めて少ない。そして雄の誇示飛翔域への雌の侵入は、夜間にしか確認されなかった。
交尾行動が確認された日以外の雌の侵入状況は、以下のとおりである。
5月5日の夕方の雌の侵入は、最初Bの誇示飛翔域に行なわれたが、雌は地上に下りなかったようであった。しかしその数分後、次の雌の侵入はBの誇示飛翔域のAの誇示飛翔域との境界近くに行なわれた。雌は今度も着地せずに高度を上げ、そのまま約15mの高度で双方の誇示飛翔域から離れようとした。その時近くにいたAの誇示飛翔域の雄は"ジュジュジュ"音を発しながら雌を追跡した。その時Bの誇示飛翔域の雄も雌の侵入に気づき雌に接近しており、Bの雄は雌を追跡するAの雄を尾羽で"ビュウ"音を発しながら攻撃した。この後2分間、Aの雄とBの雄は双方の誇示飛翔域の境界の上空約15mで、"ビュウ"音を発しながら争った。そして5分後、再び2羽の雄は通常の誇示飛翔を開始した。
5月12日の夕方は、雌の侵入が確認されたのはB雄だけだった。しかし詳細はわからなかった。
5月16日の雌の侵入は、真夜中の誇示飛翔のピーク時にだけ確認された。Bの誇示飛翔域に雌が侵入し、その直俊雄Bは"ザザザ"音と共に雌が着地したと思われる雄Aとの境界付近に急降下した。それとほぼ同時に、同じ場所を目がけて雄Aも"ザザザ"音と共に急降下してきた。以後8分間、"ビュウ"音と"ザザザ"音を発しながら、2羽の雄は空中で争った。月光の中、2羽の雄は地上15m付近を並行して飛行しながら争うのが見えた。そして突然、2羽の雄は双方比較的近い位置に着地した。着地後すぐに低い"ビー、ビー"音が4回聞こえ、それから"ズビー、ズビー"音となりしばらく続いた。その場所に雌がいたかどうかは確認できなかったが、5月3日の観察例から、この時交尾が行なわれたものと思われる。
誇示飛翔のピークを先導した雄は決っており(雄B)、雌はその先導個体のコートに侵入しようとしていた。交尾行動が確認されたのも先導個体であった。
オオジシギの誇示飛翔には日周性があり、日の出•日の人り前後にピークがあることが確かめられているが(新出•藤巻 1985、中村•重盛 1990、飯田 1991)、今回の調査では、それ以外にも満月の頃には、真夜中にも誇示飛翔のピークがあることが確認された。

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