日本鳥学会誌
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発信機装着カッコウの繁殖期における動き,空間利用及び社会組織
中村 浩志宮沢 良友
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1997 年 46 巻 1 号 p. 23-54,57

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抄録

長野市郊外の千曲川で1984年から1993年にかけ計333個体のカッコウを捕獲し,うち81羽に発信機を装着することにより,個体の動き,空間利用,社会組織等について調査を行なった.性別不明の個体(8.7%)を除いた捕獲個体の性比は,雌1.00に対し雄1.25であった.個体追跡調査の結果,それぞれのカッコウは,それぞれ異なる繁殖域と採食域をもち,両地域の間を毎日通う生活をしていることが明らかになった.午前中は,千曲川などの宿主の豊富な地域で過ごし,その後は採食のため近くの山地や郊外を訪れた.繁殖地に留まっている時間は,一日平均雄で9.0±0.8(SE)時間,雌で8.7±0.7時間であった.これは,日中の時間のそれぞれ58.2%,56,3%にあたった.すべての雄は,夜明け直後に繁殖地を訪れたが,雌の出現時間帯のピークは雄より約1時間遅れていた.両性ともに,早朝の出現ピーク後から午後にかけて除々に出現する個体の割合が減少し,夕方の6時前後に再び増加した.繁殖地での雄の主な行動はさえずりで,出現時間の19.8%~40.2%の時間をさえずりについやしていた.各雄は,それぞれ限られた地域でさえずっており,雄のさえずり域の平均の大きさは40.9±4.9haであった.しかし,各雄のさえずり域は互いに大きく重なっていた.特に,まわりに多くの宿主が繁殖しているハリエンジュ林で最も重なりが顕著であった,雄は時折,さえずり域の外に出で繁殖行動をすることもあったが,これらの行動も含めた雄の平均繁殖域の面積は,67.5±8.9haであった.
調査地には,オオヨシキリ,モズ,オナガ3種類の宿主が生息し,この3宿主に対応して3タイプのカッコウ雌が存在した.今回調査した各雌は,それぞれ1種類の宿主のみに特殊化していた.各雌の繁殖活動が観察された地域(繁殖域)は,それぞれの異なったタイプの雌間及び同じタイプの雌間ともに重なりが見られた.雌の平均繁殖域の大きさは,63.6±8.5haであったが,オナガに托卵する雌の繁殖域はオオヨシキリに托卵する雌のものより有意に大きかった.カッコウは,繁殖地ではめったに採食はしなかった.繁殖地にいない間,多くの個体は近くにある山地に採食のため訪れていた.また,山地から離れた場所で繁殖する一部の個体は,郊外の住宅地を訪れていた.各個体の山地における採食域の大きさの平均は,雄で23.7±5.7ha,雌で27.6±6.8haであった.これに対し,郊外で採食する個体は,327.0haと広い採食域をもっていた.一日あたりの繁殖地を訪れる回数は,繁殖地と採食地間の距離と密接に関係していた.すなわち,距離が遠い場合には,一日に一回繁殖地を訪れたのみであったのに対し、,近い場合にはより多く訪れた.採食地までの距離は,一回あたり滞在する時間とは正の相関が見られたが,一日あたりの合計採食時間とは負の相関が見られた.
カッコウは,繁殖地と採食地の双方に単独でねぐらをとった.山地のねぐら場所は,ほぼ毎日変化したが,河川敷きや郊外にねぐらをとる場合にはしばしば同じ場所にとられた.繁殖地にねぐらをとることは,雌よりも雄で多く見られた.しかし,繁殖地にねぐらをとる割合は,雌雄ともに季節の進行とともに減少した.繁殖域と採食域を合わせた行動圏の大きさの平均は,雄が3.02±0.28km2,雌が3.26±0.40km2であった.
この論文では,以下の3点について論じた.(1)カッコウでは,繁殖域と採食域が分離しているのか一般的であり,このことはこの鳥の托卵性と特殊な食性と密接にかかわっている,(2)採食域を訪れるため繁殖域を去ることには,コストが伴なう.そのため,繁殖域と採食域間の距離は,一日あたり繁殖域を訪れる回数,一回あたりの滞在時間の長さ,一日あたりの採食時間の合計に影響をあたえている.(3)カッコウの社会組織は,宿主の巣(資源)と密接に関係しており,その密度と分布に大きく影響される.そのため,カッコウの普遍的な婚姻形態は,雄による資源の分割またはそれらへの接近,それに対する雌による選択に基ずくと考えられる.

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