アオサギの繁殖地は国内に広く確認されており,近年その分布域の拡大が報告されている(日本野鳥の会1994).しかし,より詳細なデータにもとづく地域レベルでのコロニー動態については,国内では成末(1992)を除いて報告が無い.今回調査を行った北海道は,島であり繁殖期間中の地理的独立性が高いと考えられる.このため,コロニーの変遷過程を北海道のみの閉じた系の中で分析できるという利点がある.また,北海道はこれまで報告のあるヨーロッパ(Voisin1991)や国内の他地域にくらべ人間による開発の歴史が比較的浅い.したがって,人為的な環境の改変がほとんどなかった初期の段階からコロニーの変遷過程を追うことが可能である.これまで北海道では1990年から1992年にかけ,現存コロニーについての調査は行われたことがある(Matsunaga 1992)が,コロニーの変遷については十分な論議がなされてこなかった.今回,さらに包括的な情報収集と現地調査により,1960年から1999年までの40年間に北海道に成立したコロニーについて,分布の変遷過程の概要を把握することができた.
北海道では,これまで66のコロニーが確認され,このうち13ヶ所は既に消滅した.コロニー数は1980年頃を境に急増する傾向にあり,その前後の年間のコロニー増加率は,前半が0.40ヶ所であったのに対し,後半は2.05ヶ所であった.一方,コロニーの規模は,前半がコロニーあたり170.5巣であったのに対し,後半は48.4巣と小さくなっていた.また,コロニーは1960年当初は餌場環境の良い沿岸地域に分布していたが,近年,より餌場環境の貧弱な内陸へと分散する傾向が見られた.また内陸系コロニーの平均営巣数は48.8巣であり,沿岸系コロニーの107.0巣にくらべると規模が小さかった.
北海道におけるコロニー数の増加と分布範囲の拡大傾向は,気候や人為的な影響で利用可能な餌場が増えたことによる自発的な分散と,営巣環境の悪化による強制的な移動分散が原因であると推測される.北海道のコロニー分布の変遷は,1960年代までに成立していた沿岸地域のコアコロニーが周辺環境の変化にともなって,サテライトコロニーを内陸へ向け放出したプロセスとみなすことができる.サテライトコロニーは,餌場の質や量が劣ることや,人為的な餌資源や人工の営巣場所に依存しているなどの点で,環境の変化に対し脆弱であると考えられる.一方,自然環境下に広大な餌場をもつコアコロニーは,それ自体安定性が高く,サテライトコロニーの供給源としての性格ももつと考えられる.したがって,アオサギ地域個体群の効率よい保全を進めてゆく上で,コアコロニーの保全対策は最優先すべき課題であろう