日本鳥学会誌
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水面のねぐら:安全性に関連したカモ類の休息場所選択
嶋田 哲郎
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2001 年 50 巻 4 号 p. 167-174,181

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抄録

鳥類は安全な場所にねぐらを作るといわれる.しかしその安全性を実際に定量的に評価した研究はない.この論文では,千葉県北西部の市街地にある26ヶ所の池でみられたカモ類を対象に,安全範囲という概念によって池の安全性を定量し,カモ類の休息場所選択との関連について調べた.カモ類のカウントは1992年12月~1993年2月と1993年12月~1994年1月にかけて計135回(5.2回/池)行った.調査地域で優占種であったカルガモへの接近実験を2ヶ所の池で5回行い,それにもとづいて安全範囲を評価した.すなわち,調査者がカルガモに近づいたとき逃げ始めた最初の個体と調査者との距離を計測し,池の全面積から,池の周囲で人の侵入可能な部分から池に向かってその距離分で形成される面積を除いた範囲である.カルガモの逃避開始距離の平均は29.2mであった.
17池で10種のカモ類(水面採食性カモ類:8種,潜水採食性カモ類:2種)を記録した.カモ類を水面採食性カモ類と潜水採食性カモ類の2つのグループに分け,各グループが出現した池としなかった池の間で,池の全面積,安全範囲の面積を比較した.どちらのグループのカモ類でも,出現した池の方が全面積,安全範囲の面積とも有意に大きかった.個体数と面積の関係をみると,水面採食性カモ類の個体数と安全範囲の面積との間でのみ有意な正の相関が認められた.しかし水面採食性カモ類の個体数と全面積,潜水採食性カモ類の個体数と全面積,安全範囲の面積には有意な相関は認められなかった.水面採食性カモ類は池を休息場所としてのみ利用するが,潜水採食性カモ類は採食場所としても利用する.そのため潜水採食性カモ類の個体数には池内の食物量が大きく影響している可能性がある.
安全範囲はカモ類の休息場所の安全性を示す有効な指標になりうると考えられる.今回,安全範囲の算出には面積だけを用いた.今後,実際に生じる人為的攪乱の程度や捕食者の影響などを考慮することによって,さらに精度の高いねぐらの安全性の評価ができると考えられる.

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