2016 年 28 巻 1 号 p. 11-25
地域社会が直面する急速な高齢化や人口減少は,多産多死から少産少死へと向かう,日本全体の人口転換の歴史的な流れに沿ったものであるが,危機の本質は1970年代後半以降,出生力が置換水準以下となり,さらに人口移動の効果が加わることにある.日本の人口転換では再生産期間の生残率の上昇により高まる多産・多子のリスクに対し,より少なく産むことで母子ともに健康で豊かな生活を求める「家族の再生産戦略」が取られたが,下限の2子に達した1970年代後半からは家族形成のタイミングがシフトし始め,高学歴・良い職場・良いパートナーを獲得する競争が始まり,あえて生涯未婚,無子・1子となるリスクも選択されるようになった.このため就業機会の有無や大学進学率の高低などが作用し大都市と地方の間には結婚・出生力に格差が生じたが,格差はすでに小さくなり,地方の再生産年齢人口の純移動をプラスに転じる以外に「地方創生」の道はないといえる.