2019 年 31 巻 1 号 p. 32-44
福祉国家建設の途上にある中国は公的介護保険制度の在り方を模索している.政策導入の初期に人々はいかなる介護意識を持つのか.この問題意識のもとで,本稿は中国農村部に注目して高齢者ケアをめぐる選好の構造を考察する.ケアの脱家族化論を援用してケアサービスとケア費用についての仮説を提起し,中国中部に位置するF県とQ県で実施した調査データを用いた多変量解析により,介護意識の規定要因を分析した.分析の結果,1)脱家族的なケアサービス志向に対するコミュニティケア,女性,若年世代,都市部居住,非農業就労などの効果が正の値,三世代以上世帯,娘同一世帯などの効果が負の値で有意であること,2)脱家族的なケア費用志向に対する不平等縮小感と皆保険・皆年金評価の効果が正の値で有意であることが明らかになった.高齢者ケアについて,農村部住民は「支援された家族主義」志向および「脱家族主義」志向を持つことが示唆される.