2020 年 32 巻 2 号 p. 143-155
戦後民主化の時代,戦前の家族制度が廃止され,個人の自律と家族成員の平等や愛情を提唱する家族の民主化論が興隆した.彼らは戦前の家族制度復活論や個人主義化による家族解体のリスクもふまえ,自律した家族成員がいかに関係を形成しうるかという問いに取り組んでいた.戦前の家族の情緒的関係に対して民主化論者が批判的だったことはすでに明らかにされたが,それに代わる新たな家族関係がいかに構想されたかは十分検討されていない.なお自律・対話と親密性の両立という問題は当時固有のものではなく,「家族の個人化」や女性の社会進出が進んだ80年代以降にも家族の対話の必要性とその困難さが議論されてきた.自律や平等といった価値を手放さずに他者と親しい関係を形成するには,自律や対話と両立する親密性について検討する必要がある.本稿は当時の議論の検討を通じ,民主的家族における親密性に関して「多面的な自己開示」という見方を提起する.