家族社会学研究
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教育期の子育てと親子関係
親と子の関わりを新たな観点から実証する
笹谷 春美
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2001 年 13 巻 1 号 p. 8

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抄録

現代日本は「企業社会」であると同時に「学歴社会」である。この「学歴社会」は, 教育期の子どもを抱える家族の強力な下支えによって成立している。このような〈教育する家族〉 (神原, 2001) の危うさがマスコミ等でとりあげられるようになって久しい。しかし, 「普通」の家族においては現実のところどうなのか。これらの問題を解明すべき家族社会学において, 意外にも〈教育期の子どもと親子関係〉に焦点を当てた実証研究は少ない。本書は, このような問題意識から, 名古屋近在の家族研究者グループ (通称「なごや会」) が取り組んだ実証的共同研究の成果である。
本書はIII部構成からなる。第I部の「戦後の親子関係研究から」は, とくに実証研究を中心とした未成人の親子関係研究のレビュー (第1章) と本書の分析データとなる調査の概要 (第2章) からなる。第II部の「子育てと親子関係の現代的特徴」は, 子育ての世代間分析 (第3章), 父親に焦点をあてた「親からみた子との関係」 (第4章), 子どもの手伝いの意義を問う「子どもからみた親との関係」 (第5章) からなる。第III部は, 夫婦関係満足度と親子関係 (第6章), 家族階層と子育て (第7章), 子どもの教育への期待と親子関係 (第7章), 子ども教育への期待と親子関係 (第8章), 子育てにおけるジェンダー (第9章), 親の生き方と親子関係 (第10章), 子育てにおける人権教育 (第11章) からなる。6人の筆者が実に多様な角度から分析を行っている。
本書の成果は, 第1に, これまで家族社会学において手薄であった〈教育期の子どもと親子関係〉の実証的研究を積み上げたこと, 第2に, その分析枠組みと調査データの重層性にある。つまり, 1995年に「なごや会」が行った名古屋市のある地域の小学5年生と中学2年生の子どもとその父母双方を対象とした調査 (名古屋調査) を中心に, さらにこの調査データの歴史的特長を探るために1960年代に行われた同様の調査との比較を試み, また, 父母に自分たちが子どもであった頃の親の子育てのあり方 (自分の育てられ方) を聞くことによって3世代の親子関係の連鎖の把握を試みている。このような複眼的な調査枠組みによって, 再生論視角やジェンダー視角からの分析も可能となり, 第III部のさまざまな角度からの重層的分析が可能となっている。
しかしながら, それにもかかわらず各章からみえてくる結論は, 従来論じられている知見をそれ程超えるものではないことが残念である。つまり, どこからどう切っても, 性別分業家族, 手伝いより子どもの勉強や成績に熱心な父母, 一時代前より親密な親子関係, そのような家庭を暖かいと感じ伝統的ジェンダー意識や学歴志向を再生産する子どもたちがみえてくる。これを〈危うい〉と指摘する章もあるが, データそのものからの言及が少ないため説得力が弱い。それともこれが日本の実態だとすれば, 学歴社会を下支えする日本型近代家族のしぶとさを浮き彫りにした成果は大きいといえよう。

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