13 巻 (2001) 2 号 p. 119
本書は, 人間の一生を, 集団から集団への遍歴, あるいはさまざまな社会的領域の問の移動, すなわち「出会い」と「別れ」の連鎖ととらえ, 近・現代の日本社会における人間の一生の特徴と, それが戦後あるいは近代の社会変動によってどのように変容してきたのか, そしてどのように変容しようとしているのかについての検討を試みている。
本書は7章から構成されている。第1章「近代日本における『人生』」では, 教育・職業生活における「成功」と家庭生活における「幸福」を二大テーマとする近代版「人生の物語」が日本において成立したのは, 「成功」が容易なものではなくなった大正前期であることを論じている。第2章「実家を失った世代の『実家』」では, 最近未婚の若者たちの間で「実家」という言葉が「親元」という意味で使われている現象に着目して, そこから親子世代の関係の歴史的変遷をたどりながら, 家族が外部世界から切り離された一つの完全な小世界に変貌するに至った背景や要因について論じている。第3章「子と出会いたい-出会いの期待と生殖補助医療の現在-」では, 合計特殊出生率の低下は「子どもが欲しい」という欲求の低下と同義ではないことを指摘したうえで, 近年の生殖補助医療技術の発達が不妊症の人々の「子どもが欲しい」という欲求を加熱するとともに, 「実子」とはなにか, なぜ「子どもが欲しい」のかといった従来自明とされてきたことへの問いかけを呼び覚ましていることを論じている。第4章「職業との出会い」では, 個人にとっての職業の意味を考えながら, 職業生活の開始である最初の就職という出来事を人々がこれまでどのように経験してきたか, そして今どのように経験しているのかを, ライフコース調査のデータに基づいて分析している。第5章「職業との別れ-定年退職をめぐるヤング・オールドの選択-」では, ヤング・オールド期への通過儀礼として位置づけられたサラリーマン人生における定年退職という出来事が, 定年退職制度及び年金制度の変革と成熟を背景として変容し, 「新たな中年期の延長」と呼ぶべき現象が生じていることを論じている。第6章「インターネット・コミュニティにおける新しい組織形態」では, フリーソフトウェアの開発プロジェクト「リナックス」の事例研究をとおして, インターネットの出現がもたらす新しいタイプの人間関係, 組織, またその社会への影響について論じている。第7章「死生観のゆくえ-死と出会う日本社会-」では, 経済成長の減速や高齢社会の進展を背景として, 伝統的な死生観との連続性を有しながらもその枠にとどまらない, 新しい死生観のあらわれを論じている。
「出会い」と「別れ」の連鎖である人間の一生を, きわめて個人的なこととしてではなく, 社会現象ととらえ社会構造の内部に位置づけて, 多角的な関心と分野からのアプローチを提示している本書には, ライフコースを研究するあらたな軸や分析視点のヒントと可能性が盛り込まれており, 読みやすい構成とともに読みごたえのある書となっている。