2016 年 57 巻 1 号 p. 23-30
Cenococcum geophilum は子のう菌,Dothideomycetes 網に属する不完全菌であり,土壌中に菌核を形成する他に,マツ科,ブナ科,カバノキ科など多様な樹種の細根に感染して,外生菌根と呼ばれる共生体を形成する.本論文では,はじめに本菌の分類と遺伝的多様性に関して,これまでの研究から分かってきた基本的な知見について概説した.次に,Genbankに登録されている世界各地の塩基配列データとフロリダ由来の新規データを用いて,本菌の系統学的多様性を再考した最新の研究成果を紹介した.Cenococcum geophilum には、これまで考えられていた以上に多くの系統群が含まれており、非菌根性で分子系統学的にも他の系統群と明確に区別することができる隠蔽種が存在した。最後に,これらの研究成果をふまえて,菌根形成能などの生態学的特徴や分子系統解析などのDNA情報を活用した分類体系の構築の必要性や,次世代シーケンサーを利用したより詳細な菌株間の分子系統関係の解明など、今後の研究の展望について論じた.