本研究では, 近森一重の戦前の音楽教育実践と音楽教育観について考察する。その方法は次の二点である。 (1) 近森が戦前唱歌訓導として勤務した, 東京市汐見尋常高等小学校 (現東京都文京区汐見小学校) に保管されている当時の史料を整理し分析する。 (2) 雑誌『教育音楽』の戦前の記事や近森の論文を検討する。その結果, 近森が唱歌訓導として意欲的に音楽教育の環境を整え, 唱歌演習会等の行事を洗練させ, 授業研究を深めていったことや, 実践と理論をつないだ「実践の論」として多くの論文を著したことを明らかにした。また, 二つの授業実践記録の分析を通じて, 近森の実践における諸相を描き出した。以上から, 近森の音楽教育観が, 「学習者の学びに即した系統的な基礎練習」「教授事項の有機的統一」「児童に『発見』を促す指導の工夫」という三つの観点によって構築されていることを指摘した。