2021 年 26 巻 1 号 p. 5-13
目的:急性心不全により初回入院した 75 歳以上の患者を対象に,入院前後の心不全治療薬の処方変化の実態と,この処方変化が退院後 1 年間の再入院に及ぼす影響を検討した.
デザイン:後ろ向きコホート研究.
方法:東邦大学医療センター大森病院循環器内科において,2004年4月から2017年3月に入院した 75 歳以上の初発心不全患者を,電子カルテデータから選択した.この中で退院後の外来受診記録があり,今回の入院期間中に心血管手術および経皮的冠動脈形成術を施行されず,計画再入院,死亡のない 329 人を解析対象者とした.入院および退院時の処方では,急性・慢性心不全診療ガイドラインで推奨される薬剤(angiotensin converting enzyme(ACE)阻害薬,angiotensin Ⅱ receptor blocker(ARB),β 遮断薬,mineralocorticoid receptor antagonist(MRA),利尿薬(以下,クラスⅠ推奨薬))に着目した.この処方情報に基づき,薬剤の増量や追加を確認し,2 群(増量・追加群と減量・維持群)に分類,比較した.主要評価項目は退院後 1 年以内の心不全による再入院とした.
結果:対象者のうち 231 例が増量・追加群,98 例が減量・維持群に分類された.退院後 1年以内の心不全による再入院率は増量・追加群 26.5%,減量・維持群 31.8%であり,減量・維持群に対する増量・追加群の調整前ハザード比は 0.76(95%信頼区間:0.48-1.21,P 値 0.244).循環器疾患の危険因子を調整した減量・維持群に対する増量・追加群のハザード比は 0.82(95%信頼区間:0.51-1.33,P 値 0.415)であった.
結論:病院データベースの検討により,急性・慢性心不全診療ガイドラインクラスⅠ推奨薬の増量・追加のあった群では,再入院リスクが低い傾向がみられたものの,統計的な差異は認められなかった.