抄録
近年の分子遺伝学の進歩により, 小児急性リンパ性白血病 (ALL) の染色体異常の切断点の近傍の遺伝子がクローニングされ, 転座に関与する遺伝子が次々と同定されてきた.本稿では染色体異常を (1) 転座型, (2) 欠失型, (3) 数的異常型の3型に分けて概説した.転座型では, B細胞系の14q32転座型は免疫グロブリン (Ig) の, T細胞系の14q11と7q35転座型はT細胞受容体 (TCR) 遺伝子の転座による再構成を用いて転座の相手の染色体上の遺伝子がクローニングされた.最近Pre-BALLでみられるt (1;19) も詳細に検討され, 従来より研究されている8;14転座型や9;22転座型でも新しい所見がみいだされ, 臨床像との関係が話題になっている.欠失型では9p-, 6q-, 12p-の研究が行われており, 癌抑制遺伝子が想定されている.数的異常型の研究は始まろうとしている.ALLの染色体の異常部位はALL発症または進展に関与する遺伝子の宝庫であり, 今後さらにたくさんの遺伝子が同定され, その構造や最終遺伝子産物の解明がなされ, 近い将来, ALLの予防と治癒可能な時代が到来すると思われる.