Japanese Journal of Pharmaceutical Education
Online ISSN : 2433-4774
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ISSN-L : 2433-4774
Practical Article
The problems and improvement plans for student’s satisfaction of OTC drugs practices in pre-clinical training and clinical practice in community pharmacy
Tomoka KuriharaTohru AomoriSayo SuzukiAkinori TakagiNaoko OtsukaAya JibikiTomonori Nakamura
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2017 Volume 1 Article ID: 2016-001

Details
Abstract

セルフケアのニーズが高まり,OTC薬実習の発展も求められているが,現状は十分とは言えない.我々はOTC薬実習の問題点の把握と改善策の提案を目的に,実務実習を終えた159名の学生と158薬局に対しアンケート調査を行った.

46%の学生がOTC薬実習に満足したと回答した.もっとも満足度が高かったのは「販売」を行った学生であり,次いで「ロールプレイ+見学」を行った学生であった.8割以上の薬局薬剤師はOTC薬実習に関するSBOsを達成することに困難を感じていた.また,指導薬剤師は学生のコミュニケーションスキルの不足を感じており,実務実習前に習得させる必要性があることが示された.

改善策として,まずOTC薬に関する能力や知識を大学で実務実習前に高めておく.そのうえで,「販売」をできるだけ多く経験させ,もしできなければ「ロールプレイ」と「見学」により学生の満足度を向上させることができる.これらの改善策は今後のOTC薬実習に貢献するものだと考える.

目的

平成25年度に改訂された「薬学教育モデル・コアカリキュラム」では,薬物治療としてOTC薬・セルフメディケーションが更に重要視され,症候を解釈するレベルまで求められている1).それに伴い,より実践的なOTC薬教育の場として,薬局実務実習も期待されており,「薬学実務実習に関するガイドライン」にも薬局で行うべき実習として要指導医薬品・一般用医薬品の販売業務や健康相談業務を体験することと例示されている2).しかし薬局実務実習全体の調査及び報告は多いがOTC薬実習に焦点を当てた調査は殆どない.

これまでに我々は実務実習におけるOTC薬実習の実施状況についてアンケート調査を行い,その結果を報告した3).この調査によるとOTC薬販売に関わった学生は実習に対する満足度が高く,販売業務が実施できない場合にはロールプレイと見学の両方を7回以上行うことで高い満足度が得られることが示された.しかし,学生のみの調査では現状や問題点を把握するには不十分であり,学生と薬局の双方から改めて総合的評価を行う必要がある.

そこで,本研究では実務実習におけるOTC薬実習の問題点や改善点をより明確にするため,薬局実務実習を終えた学生と実習を受け入れた薬局に対してアンケート調査を行い,customer satisfaction(CS)分析により評価した.

方法

1. アンケートの調査対象と実施期間

アンケート調査の対象は平成27年度薬局実務実習を終えた慶應義塾大学薬学部(以下,本学とする)5年生159人と,本学の実務実習を受け入れた延べ158薬局とし,各期実務実習終了後に実施した.アンケート実施に際しては,調査への参加は協力者の自由意志であり不参加であっても一切の不利益は無いこと,調査は無記名で行い個人は特定されないことを文書を用いて説明した.学生向けアンケートでは,I期実務実習については平成27年8月6日,II・III期実務実習については平成28年4月2日の実務実習報告会に関する説明会後にアンケートを配布し,その場で回答を回収した.薬局向けのアンケートでは郵送にてアンケート用紙の配布,回収を行った.

学生向けのアンケートの内容は,OTC薬実習の実施内容,満足度に関する質問項目など全10項目とした(図1).また薬局向けのアンケートの内容は,OTC薬実習を行う上での問題点,学生に強化してほしい点など全8項目とした(図2).

図1

学生向けアンケート用紙

図2

薬局向けアンケート用紙

2. 解析方法

OTC薬実習実施状況については,「販売」,「ロールプレイ(role play: RP)+見学」,「見学のみ」,「RPのみ」,販売,RP,見学の「いずれも実施せず」の5つに分類して集計した.「販売」群に関してはほかの実習項目の実施の有無にかかわらず,販売を行っていた場合は「販売」群に分類した.

「RP+見学」群と「RPのみ」群においてRP相手により薬剤師相手のRPを行った「薬剤師相手」群と学生相手のみRPを行った「学生相手のみ」群との2種類に細分化した.

「販売」群に関しては,販売形態により「相談販売」と「指名販売のみ」とに細分化して解析を行った.販売の種類とは,来局者が指定した商品を販売する「指名販売」と,学生が来局者から症状を聞き取り,商品を選択する「相談販売」の2種類とした.

学生向けアンケートにおいては,OTC薬実習に対する総合評価を解析するにあたり,3つの質問項目「薬局実務実習を終えて,実習前よりもOTC薬への興味はわきましたか(興味)」,「総合的に,薬局実務実習でのOTC薬実習は十分に行えたと思いますか(十分な実施)」,「総合的に,薬局実務実習でのOTC薬実習は満足でしたか(満足度)」に対して「全くそう思わない+あまりそう思わない+どちらかというとそう思わない」=「思わない」,「どちらかというとそう思う+ややそう思う+非常にそう思う」=「思う」として集計した.

薬局向けアンケートでは,薬局側の環境要因としてOTC薬実習を行った施設と薬局におけるOTC薬販売の頻度の2点に関して細分化した.OTC薬実習を行った施設については「自施設のみ」「協力施設のみ」「自施設&協力施設(両方)」の3種類に分類した.薬局のOTC薬販売の頻度については「週5~10回+それ以上」=「週5回以上」,「週1~2回+週3~4回」=「週1~4回」,「月1~2回+月3~4回」=「月1~4回」,「ほとんどなし」の4種類に分類した.薬局のOTC薬実習に対する総合評価を解析するにあたり,「OTC薬実習に関して,すべてのSBOsを実施することについてどう感じましたか(SBOs実施の困難さ)」の質問に対して「すべて実施することは困難+やや問題があり,支障がある項目もある」=「支障あり」,「やや問題があったが,支障はないと感じた+何も問題なし」=「支障なし」として集計した.

3. 統計解析

統計解析は,フィッシャーの直接確率検定およびCS分析を行った.

学生向けアンケートのCS分析では「総合的に,薬局実務実習でのOTC薬実習は満足でしたか」を「総合満足度」とし,「非常に不満足」1点,「やや不満足」2点,「どちらかというと不満足」3点,「どちらかというと満足」4点,「やや満足」5点,「非常に満足」6点として回答をスコア化した.また「薬局実務実習中のOTC薬実習でもっと学びたかった,又はもっとやりたかった項目は何ですか」の設問に対して,選択しなかった項目は満足したとみなし,満足した学生の割合を「項目の満足度」とした.続いて,総合満足度と項目の満足度との相関係数を算出し,さらに,項目の満足度と相関係数の偏差値を求めた.以下,定法に従って各項目の改善度を算出した.総合満足度との相関が強く,かつ項目の満足度が低い項目ほど高い改善度が算出される.

薬局向けアンケートにおいてはSBOs実施の困難さを総合評価とし,「すべてを実施するのは困難だと感じた」1点,「やや問題があり,実施するにあたり支障がある項目もあると感じた」2点,「やや問題があったが,実施することに支障はないと感じた」3点,「実施するにあたり何も問題はないと感じた」4点として回答をスコア化した.また「OTC薬実習を行う上で,問題と感じたことは何ですか」の設問に対して,選択しなかった項目は満足したとみなし,満足した薬局の割合を「項目の満足度」とした.以下,学生に対するアンケートと同様の方法でCS分析を行い,各項目の改善度を求めた.

結果

1. 学生向けアンケート

1-1.OTC薬実習の実施状況

159名中151名から回答を得た(回収率95%).OTC薬の実習内容としては「販売」44名(29%),「RP+見学」39名(26%),「見学のみ」26名(17%),「RPのみ」28名(19%),「いずれも実施せず」13名(9%),無回答1名(1%)であった.販売形態について,相談販売を行った学生は33名であった.RPを行った学生は67名であり,RP相手が学生相手のみだった場合は15名,薬剤師相手に行った学生は52名であった.

1-2.OTC薬実習に関する総合評価

OTC薬実習に対して「興味」,「十分」,「満足度」を問う質問に対して「そう思う」と回答した学生はそれぞれ110名(73%),54名(36%),69名(46%)であった.

OTC薬実習に対する学生の「興味」,「十分な実施」,「満足度」に関して解析した(表1).実習実施状況別では,「見学のみ」,「RPのみ」,「いずれも実施せず」の群では販売ができた群に比べて「十分」「満足」と答えた学生が少なかった(P < 0.001).またRP相手では,学生同士のみで行った群と比較して,薬剤師相手に行った群では満足度が高かった(P < 0.05).販売形態では指名販売のみを行った群と比較して,相談販売を行った群では十分に実習を行えたと感じた学生が多かった(P < 0.05).実習実施回数による「興味」「十分な実施」「満足度」への影響は,「販売」,「RP+見学」,「見学のみ」,「RPのみ」のすべての群で一定の傾向は見られなかった(表2).

表1 実習状況別・RP相手別・販売形態別のOTC実習の満足度
Q6 興味が湧いたか
(湧いた / 湧かない)
Q8 十分行えたか
(十分 / 不十分)
Q9 満足だったか
(満足 / 不満足)
OTC実習状況別
販売 36 (86) / 6 (14) 28 (67) / 14 (33) 32 (76) / 10 (24)
RP+見学 32 (84) / 6 (16) 17 (45) / 21 (55) 25 (66) / 13 (34)
見学のみ 15 (68) / 7 (32) 2 (9) / 20 (91) 4 (18) / 18 (82)
RPのみ 21 (75) / 7 (25) 6 (21) / 22 (79) 6 (21) / 22 (79)
いずれも実施せず 6 (46) / 7 (54) 1 (8) / 12 (92) 2 (15) / 11 (85)
RP相手別
薬剤師相手 42 (82) / 9 (18) 20 (39) / 31 (61) 28 (55) / 23 (45)
学生相手のみ 11 (73) / 4 (17) 3 (20) / 12 (80) 3 (20) / 12 (80)
販売形態別
相談販売 26 (84) / 5 (16) 24 (77) / 7 (23) 26 (84) / 5 (16)
指名販売のみ 10 (91) / 1 (9) 4 (36) / 7 (64) 6 (55) / 5 (45)

数値はn (%)

表2 学生向けアンケート:実習実施回数と「興味」「十分な実施」「満足度」との関係
回 数 RPのみ 見学のみ RP+見学 販売
Q6
興味が湧いたか
(湧いた / 湧かない)
Q8
十分行えたか
(十分 / 不十分)
Q9
満足だったか
(満足 / 不満足)
Q6
興味が湧いたか
(湧いた / 湧かない)
Q8
十分行えたか
(十分 / 不十分)
Q9
満足だったか
(満足 / 不満足)
Q6
興味が湧いたか
(湧いた / 湧かない)
Q8
十分行えたか
(十分 / 不十分)
Q9
満足だったか
(満足 / 不満足)
Q6
興味が湧いたか
(湧いた / 湧かない)
Q8
十分行えたか
(十分 / 不十分)
Q9
満足だったか
(満足 / 不満足)
1回 5 (50) / 5 (50) 1 (9) / 10 (91) 1 (9) / 10 (91) 7 (64) / 4 (36) 1 (9) / 10 (91) 3 (27) / 8 (73) 11 (100) / 0 (0) 7 (64) / 4 (36) 9 (82) / 2 (18)
2回 4 (100) / 0 (0) 1 (25) / 3 (75) 0 (0) / 4 (100) 3 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (50) / 1 (50) 0 (0) / 2 (100) 1 (50) / 1 (50) 6 (67) / 3 (33) 3 (33) / 6 (67) 5 (56) / 4 (44)
3回 4 (100) / 0 (0) 1 (25) / 3 (75) 1 (25) / 3 (75) 1 (33) / 2 (67) 0 (0) / 3 (100) 0 (0) / 3 (100) 4 (80) / 1 (20) 2 (40) / 3 (60) 2 (40) / 3 (60) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0)
4回 3 (100) / 0 (0) 2 (67) / 1 (33) 2 (67) / 1 (33) 4 (100) / 0 (0) 2 (50) / 2 (50) 2 (50) / 2 (50)
5回 1 (100) / 0 (0) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100) 4 (100) / 0 (0) 0 (0) / 4 (100) 0 (0) / 4 (100) 3 (100) / 0 (0) 2 (67) / 1 (33) 3 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0)
6回 1 (100) / 0 (0) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100) 3 (75) / 1 (25) 1 (25) / 3 (75) 3 (75) / 1 (25) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0) 1 (100) / 0 (0)
7回 4 (100) / 0 (0) 2 (50) / 2 (50) 3 (75) / 1 (25) 1 (100) / 0 (0) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100)
8回 1 (100) / 0 (0) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100)
9回 1 (100) / 0 (0) 0 (0) / 1 (100) 1 (100) / 0 (0) 1 (50) / 1 (50) 2 (100) / 0 (0) 2 (100) / 0 (0)
10回以上 4 (67) / 2 (33) 2 (40) / 3 (60) 2 (40) / 3 (60) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100) 0 (0) / 1 (100) 12 (86) / 2 (14) 6 (43) / 8 (57) 8 (57) / 6 (43) 11 (79) / 4 (27) 11 (79) / 4 (27) 11 (79) / 4 (27)

数値は n(%)

薬局実務実習を受けて学生自身の知識に関する質問項目を設けたところ,OTC薬の種類に関する知識の必要性を感じた学生は131名(87%),OTC薬の成分や薬理作用に関する知識の必要性を感じた学生は126名(83%),疾患や病態の知識の必要性を感じた学生が137名(91%)であった.

1-3.CS分析

OTC薬実習の総合満足度を改善する因子の探索をCS分析で行った結果を表3に示す.

表3 学生向けアンケート:実習項目に対する CS 分析データ
項目名 相関係数 改善度
①OTC薬に関する講義 –4.8 × 10–2 –6.5
②OTC薬選択となる疾患や症状の基準 8.6 × 10–2 9.1
③受診勧奨となる疾患や症状の基準 –5.3 × 10–3 0.6
④OTC薬と医療用医薬品の相互作用 –3.8 × 10–2 –4.3
⑤学生同士のロールプレイ –2.1 × 10–2 –15.2
⑥薬剤師とのロールプレイ 7.0 × 10–2 –3.9
⑦薬剤師が OTC 薬販売しているところの見学 2.5 × 10–1 10.0
⑧学生による実際の販売(指名販売) 2.3 × 10–1 8.4
⑨学生による実際の販売(相談販売) 1.7 × 10–1 10.2
⑩疾患や商品の紹介のポップやポスター作り 4.2 × 10–2 –8.2

改善度が高かった順に「学生による実際の販売(相談販売)」,「薬剤師がOTC薬を販売しているところの見学」,「OTC薬選択となる疾患や症状の基準」,「学生による実際の販売(指名販売)」であった.

2. 薬局に対するアンケート

2-1.OTC薬実習の実施状況

158薬局中125薬局から回答が得られた(回収率79%).

薬局実務実習において行われたOTC薬実習の内容としては「販売」71薬局(57%),「RP+見学」35薬局(28%),「見学のみ」9薬局(7%),「RPのみ」8薬局(6%),「いずれも実施せず」0薬局(0%),無回答2薬局(2%)であった.販売形態のうち指名販売のみだったのは28薬局,相談販売をさせたのは43薬局であった.またRPの相手別では学生相手のみを行ったのは1薬局,薬剤師相手を行ったのは42薬局であった.

2-2.OTC薬実習関連SBOs実施の困難さ

OTC薬実習に関連したSBOsを達成することに関しての薬局の回答は「すべて実施することは困難」34薬局(27%),「やや問題があり,支障がある項目もある」33薬局(26%),「やや問題があったが,支障はないと感じた」31薬局(25%),「何も問題なし」24薬局(19%)無回答3薬局(2%)であり,8割近くの薬局がSBOsの達成に問題があり,半数以上の薬局では実習に支障があると感じていた.

2-3.薬局環境別のSBOs実施の困難さ

OTC薬実習の実施施設については「自施設のみ」59薬局(47%),「協力施設のみ」41薬局(33%),「両方」24薬局(19%),無回答1薬局(1%)であった.このうちOTC薬実習のSBOs実施の困難さについても回答の得られた121薬局について実習実施施設別に解析した(表4).「協力施設のみ」でOTC薬実習を行った薬局は「自施設のみ」で行った薬局に比べてSBOsの実施に支障を感じた薬局が多かった(P < 0.01).

表4 実習施設別・販売頻度別の SBOs 実施の困難さ
支障あり 支障なし
実習施設別
自施設のみ 25(43) 33(57)
協力施設のみ 29(73) 11(28)
自施設&協力施設 12(52) 11(48)
販売頻度別
週5回以上 13(28) 34(72)
週1~4回 18(69) 8(31)
月1~4回 17(74) 6(26)
ほとんどなし 19(73) 7(27)

数値はn(%)

一方,薬局におけるOTC薬の販売頻度については「ほとんどなし」27薬局(22%),「月1~4回」24薬局(19%),「週1~4回」27薬局(22%),「週5回以上」47薬局(38%)であった.このうちOTC薬実習のSBOs実施の困難さについても回答の得られた122薬局についてOTC薬販売頻度別に解析した(表4).「週5回以上」OTC薬販売を行っている薬局では他のすべての場合と比べてSBOsを実施することに支障を感じない割合が高かった(P < 0.01).

2-4.問題点,強化してほしい点

薬局向けアンケートではOTC薬実習を行う上で問題と感じたこととして「①OTC薬販売を行う機会が少ない」89薬局(71%),「②取り扱いOTC薬数が少ない」65薬局(52%),「③業務が忙しく時間が確保できない」16薬局(13%),「④近くに協力薬局がない」8薬局(6%),「⑤RPの患者背景を考えるのが大変」6薬局(5%),「⑥マニュアル等がない」12薬局(10%),「⑦種類に関する知識の不足」33薬局(26%),「⑧成分や薬理作用に関する知識の不足」28薬局(22%),「⑨病態や疾患に関する知識の不足」24薬局(19%),「⑩OTC薬選択または受診勧奨基準の理解不足」30薬局(24%),「⑪OTC薬と医療用医薬品との相互作用の理解不足」22薬局(18%),「⑫コミュニケーション能力の不足」29薬局(23%)が回答されていた.このうち学生の知識,理解不足に該当する⑦から⑪のうちのいずれかひとつ以上を挙げたのは46薬局(37%)であった.

一方,学生に事前学習で強化してほしいこととして「OTC薬の種類に関する知識」34薬局(27%),「成分や薬理作用に関する知識」36薬局(29%),「疾患や病態に関する知識」40薬局(32%),「OTC薬選択または受診勧奨を判断する基準の理解」54薬局(43%),「OTC薬と医療用医薬品との相互作用の知識」27薬局(22%),「コミュニケーション能力の向上」48薬局(38%),「特になし」22薬局(18%)が挙げられた.

2-5.CS分析

OTC薬実習の総合評価項目をSBOs実施の困難さとし,説明変数として問題点を置き,総合評価を改善する因子の探索をCS分析で行った.改善度指数が高かった「薬局でのOTC薬販売を行う機会が少ない」,「薬局での取り扱いOTC薬数が少ない」の項目がSBOs実施の困難さを改善するために必要となる項目であることが示された(表5).

また,販売頻度の問題が比較的軽度と思われる「週5回以上」販売群で同様にCS分析を行ったところ,「薬局でのOTC薬販売を行う機会が少ない」,「学生のコミュニケーション能力の不足」の項目について改善の必要性が高かった(表6).

表5 薬局向けアンケート:実習項目に対するCS分析データ
項目名 相関係数 改善度
①薬局でのOTC薬販売を行う機会が少ない 4.3 × 10–1 24.0
②薬局での取り扱いOTC薬数が少ない 4.8 × 10–1 20.6
③業務が忙しくOTC薬実習を行う時間が確保できない 2.6 × 10–1 0.7
④近くにOTC薬販売を行える協力薬局がない 2.5 × 10–1 –0.9
⑤ロールプレイを行う際の患者背景を考えるのが大変 1.1 × 10–1 –3.6
⑥実施内容について詳しく書かれているマニュアル等がない 1.6 × 10–1 –1.4
⑦学生のOTC薬の種類に関する知識の不足 –1.5 × 10–1 –3.4
⑧学生のOTC薬の成分や薬理作用に関する知識の不足 –2.5 × 10–1 –6.7
⑨学生の病態や疾患に関する知識の不足 –2.3 × 10–1 –7.6
⑩学生のOTC薬選択または受診勧奨を判断する基準の理解不足 –1.7 × 10–1 –4.7
⑪学生のOTC薬と医療用医薬品との相互作用の理解不足 –1.6 × 10–1 –7.0
⑫学生のコミュニケーション能力の不足 –2.3 × 10–2 –1.5
表6 薬局向けアンケート:OTC薬販売を週5回以上行っている薬局における実習項目に対するCS分析データ
項目名 相関係数 改善度
①薬局でのOTC薬販売を行う機会が少ない 4.0 × 10–1 16.7
②薬局での取り扱いOTC薬数が少ない 2.6 × 10–1 2.6
③業務が忙しくOTC薬実習を行う時間が確保できない 1.2 × 10–1 –3.9
④近くにOTC薬販売を行える協力薬局がない 該当なし 該当なし
⑤ロールプレイを行う際の患者背景を考えるのが大変 3.4 × 10–3 –7.1
⑥実習内容について詳しく書かれているマニュアル等がない 1.7 × 10–1 –3.9
⑦学生のOTC薬の種類に関する知識の不足 –8.2 × 10–2 2.5
⑧学生のOTC薬の成分や薬理作用に関する知識の不足 –3.8 × 10–1 –2.5
⑨学生の病態や疾患に関する知識の不足 –3.3 × 10–1 –2.5
⑩学生のOTC薬選択または受診勧奨を判断する基準の理解不足 –2.4 × 10–1 –1.6
⑪学生のOTC薬と医療用医薬品との相互作用の理解不足 –3.1 × 10–1 –4.3
⑫学生のコミュニケーション能力の不足 2.6 × 10–1 11.7

考察

本研究では学生,指導薬剤師の双方の意見について解析し,OTC実習の満足度向上のために必要な要素とOTC実習がなぜ実施困難なのかをCS分析によって明らかにした.CS分析を応用した薬学教育に関する研究事例としては,学内で行った講義・実習等を対象としたもの49,学外での実務実習を対象としたもの1015,卒後研修に関連したもの等が報告されている16,17).この内,実務実習を対象としたものでは病院実習に関するものが多く,学生の習得度から不足する実習項目を抽出したもの10,11,13,14,学生の視点から見た病院実習全般の満足度と改善すべき項目を報告したものがある12).一方で薬局実習については,窪田らが服薬指導実習の充足度に対する改善度を報告しているが15),OTC実習についてのCS分析による評価はこれまでになされていない.今後,増加していくセルフメディケーションのニーズに応えていくためにも,OTC薬実習の評価と改善が急がれる.

実務実習の状況把握のために平成22年に行われたアンケートでは,「十分に実施できなかった」SBOsとして回答が多かった「ユニット4 薬局カウンター」に関するものが挙がり,セルフメディケーションのための一般用医薬品,医療用具,健康食品などを適切に選択できるといった実習が十分に実施されていなかった1820.平成25年度に行われたアンケート調査でも,十分実施できなかった実習項目として「薬局カウンターで学ぶ」とした回答は在宅医療に次いで2番目に多かった21)

今回の調査でもOTC薬実習のSBOs達成に支障があると感じた薬局が多く,特にOTC薬の販売頻度が少ない薬局でその傾向が顕著であった.医薬分業により調剤のみを行う薬局が増加し,OTC薬供給を担う薬局の比率が低いことなどが背景としてあげられるが22),今後は薬局のセルフメディケーション推進の動きによりOTC薬を取り扱う薬局が増加する可能性も考えられる.一方で,週5回以上OTC薬を販売している薬局においても,薬局でのOTC薬販売を行う機会が少ないことが問題点として挙げられた(表6).これは学生のスキル・知識不足や,顧客の実習に対する理解不足により,薬局でのOTC薬販売頻度の多さが学生のOTC薬実習の機会に直接つながっていない可能性が考えられる.

学生向けに行ったアンケート調査から,OTC薬実習を十分に実施し,満足度を向上させるためには相談販売業務を行うことが重要であると示された(表1).また販売業務に次いで,RP+見学でも学生の満足度が高かった.またRPを行う場合は薬剤師を相手に行った場合,学生の満足度がより高かった.この要因として,学生同士のRPは実務実習以前に既に行っており,満足感が薄れている可能性が考えられる.以上より,自施設で販売業務を実習することができない場合,見学と薬剤師相手のRPの両方を行うことが学生の満足度向上に資する.

本調査では,OTC薬実習において販売を行ったと回答した割合が学生(29%)と薬局(57%)とで大きく異なった.学生は平成27年度に自らが行った実習について回答したのに対し,薬局には「過去の実習中に」との質問の仕方をしたため,平成27年度以前に行っていた場合でも「販売の実習を行った」と回答した可能性がある.

実務実習におけるOTC薬実習の改善のためには,薬局側の設備環境や実務実習の内容だけでなく事前学習の改善も必須である.現状では学生,薬局ともに学生の知識やスキルの不足を感じており,事前学習で強化すべきこととして「OTC薬選択または受診勧奨を判断する基準の理解」が最も多く挙げられた.また,OTC薬実習として学生が応対することについて来局者の理解を得ることが難しいという意見も見られたが,これも学生の知識やスキルの不足に起因する可能性がある.

本研究で行った提案は今後のOTC薬教育の向上に貢献するものと考える.

発表内容に関連し,開示すべき利益相反はない.

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© 2017 Japan Society for Pharamaceutical Education
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