日本公衆衛生看護学会誌
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活動報告
製薬企業営業職の生活習慣病予防のためのポピュレーション・アプローチ
―職務特性に応じた健康情報配信による効果の検討―
重松 美智子
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2022 年 11 巻 2 号 p. 117-125

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Abstract

目的:営業職の職務特性にあわせた健康情報配信による健康管理への効果を明らかにし,職域における健康支援方法のあり方を検討する.

方法:製薬企業A社の営業職へ健康保険組合より毎月営業職に特化した健康情報をメール配信し,その効果の有無をアンケートにより調査,分析した.

結果:アンケート回答率は39.4%,配信した内容を一度でも読んだ人は83.5%であった.読んだ人では,配信した健康管理に対する知識,態度,行動は,全ての項目において配信前後で有意な変化を認めたが,行動変容の割合は小さかった.読んでいない人では,一部変化を認めた項目はあったが,読んだ人と比較するとその変化の割合は非常に小さかった.

考察:営業職の生活習慣にあわせた健康情報は,営業職の健康管理に効果があることが明らかとなったが,行動変容の割合は小さかった.今後は情報配信と併せて,営業職が健康行動を取りやすい労働環境の整備の必要性が示唆された.

I. はじめに

わが国は2025年に団塊の世代全員が75歳以上となり,日本の国民の4人に1人が高齢者というかつてない超高齢化社会を迎える.厚生労働省(2019a)によると,2017年度の国民医療費は43.7兆円,前年度比で約1兆円の増加となり,総医療費の約30%が生活習慣病に係る医療費である.また2018年人口動態統計(厚生労働省,2019b)では,国民の死亡原因のうち最も多いのが悪性新生物37万人,次いで心疾患20万人,脳血管疾患10万人と,約50%が悪性新生物を含む生活習慣病であった.

このような社会情勢の中,医療保険者が実施主体となる特定健康診査・特定保健指導が2008年度から開始された.特定健康診査・特定保健指導は,早期からの生活習慣改善による疾病の発症予防と,それに伴う生活習慣病医療費の適正化が期待されており,職域においては多くの企業で健康保険組合がその任を担っている.

健康保険組合は,健康保険法に基づき,国が行う被保険者医療保険事業を代行する公法人であり,主に大手企業やグループ企業の社員が加入している.厚生労働省の調査(2021)では,被用者保険に加入する被保険者の総数は7千万人に及び,健康保険組合は現役労働者を多く抱えた組織であると言える.一方で2019年の健康保険組合の特定健康診査実施率は79.0%と目標値の70%に達しているが,特定保健指導実施率は27.4%と目標値の45%に達しておらず低迷している(厚生労働省,2020

健康保険組合をはじめとした医療保険者がその機能を十分に発揮し,将来の生活習慣病医療費を適正化していくためには,レセプトや健診情報等のデータを最大限活用した効果的な保健事業の展開が求められており(厚生労働省,2013),対象者の特性に応じた介入方法の検討や,集団全体のリスク要因を減少させるポピュレーション・アプローチの活用も併せて取り入れていく必要がある.Rose(1992)はポピュレーション・アプローチの目的について,非健康の潜在的な原因となるこれらの要因をコントロールし,集団におけるその疾病の発生率を低下させることにあるとしている.職域において報告されたポピュレーション・アプローチの事例としては,製造業従業員への集団健康教育の教育方法の検討(影山ら,2014)がある.影山らは,個人属性が様々な従業員に対し定期健康診断受診時に行った集団健康教育の効果として,教育後の知識の定着と行動変容を認めたことを報告している.しかしこのような職域におけるポピュレーション・アプローチの活動事例の報告は少なく,中でも職務特性を考慮した介入の報告事例はほとんど見られない.

A社は医薬品の製造販売を行う製薬企業であり,従業員数は,本活動実施時は約6,000人,男女比は8:2と男性の割合が高いのが特徴である.全国に5箇所ある大規模事業所には看護師や保健師等の産業看護職が常勤し,所属事業所の従業員の健康管理支援業務を行っている.一方,全国に点在している支店・営業所には産業看護職の配置はなく,各支店の総務部門の担当者が健康管理支援業務の実務を担っている.A社グループを母体に持つA健康保険組合(単一健康保険組合)には産業看護職が1名所属しており,被保険者,被扶養者の健康支援や保健事業の企画立案,運用を行っている.

A社の従業員は,研究所に勤務する研究職が約10%,工場に勤務する技能職が約15%,営業本部に所属し全国の支店・営業所に勤務する営業職が約40%,営業本部に所属し本社・東京本社に勤務する営業本部従業員,それ以外のコーポレート部門従業員が合わせて約30%という構成である.特定健康診査結果を職種別に分析すると,営業職のBMI,腹囲,収縮期血圧,拡張期血圧,中性脂肪,HDLコレステロール,空腹時血糖の平均値が,他の職種よりも高値(HDLコレステロールは低値)を示した.また生活習慣に関する問診を分析した結果,営業職では喫煙率,飲酒習慣がある者の割合,1回に飲む量の平均値がいずれも他の職種と比較し高かった.一方で労働時間が9時間以下の者の割合,朝食摂取率についてはいずれも最も低かった.さらに営業職へのヒアリング結果より,営業職の職務特性として次の2点が挙がった.1点目は,営業職は顧客の状況に応じた営業活動を行うため,長時間にわたる勤務体系(長い拘束時間)であり,不規則なライフスタイルに繋がりやすいこと,2点目は,業績の数値目標が明確であり,健康管理よりも業務を優先する傾向があること,である.以上の分析結果より,営業職はBMI,腹囲,血圧等の生活習慣病関連項目の平均値が高く,さらに,営業職の労働環境は生活習慣病発症に繋がりやすいライフスタイルであること,健康管理より業務を優先する職務特性があり,生活習慣病発症リスクが高い集団であることがわかった.

A健康保険組合では被保険者・被扶養者に対し,保健事業の案内と健康情報を掲載した機関紙の発行(年2回)や健康保険組合のホームページでの保健事業の案内を行っている.しかし,被保険者のリスクに応じた健康情報の配信にまでは至っていなかった.そこで,営業職をターゲットとした生活習慣病予防のための取り組みを行い,その取り組みの効果と職域におけるポピュレーション・アプローチ方法について検討したため報告する.

II. 方法

1. 活動の対象

A社グループの全営業職(内勤者含む)約2,200名.

2. 活動内容

A健康保険組合より2017年7月から2018年1月までの期間,毎月月末(1回/月)に「けんぽ健康応援便り」として,全支店・営業所の営業職(内勤者含む)に社内メールアドレスを使用し健康情報を配信した.健康情報はA4サイズ1枚に纏め,PDF形式のファイルでメールに添付し配信した.配信内容は運動,食事,飲酒,睡眠の項目から毎回テーマを1つ絞り,営業職独自の業務形態にあわせた内容とし,営業職が健康行動をとる際のヒントとなるよう工夫した.例えば,外回りが多い営業職がよく利用するコンビニエンスストア(以下,コンビニ)での昼食メニューの選び方や,外回りの際の歩数増加方法についてなど,営業職に身近で具体的な行動例を挙げ情報提供を行った.また気軽に配信内容を閲覧してもらえるようイラストを多用した内容とし,サラリーマン川柳の紹介など,遊びの要素も含め見やすい内容となるようにした.

3. データ収集方法

A健康保険組合から配信した健康情報について,営業職に健康情報がどの程度届いたか,また健康情報配信による健康管理の態度や行動の変化の有無を把握するため,アンケート調査を行い評価した.調査対象者は,健康情報を配信したA社グループの全営業職のうち調査に同意が得られた者とした.調査は社内独自のアンケートフォームのURLを,業務で使用する個人の社内メールアドレスに配信した.アンケートは無記名記入とした.A社より,従業員のアンケート協力回数はできるだけ少なく済むよう要望があったため,調査時期は,健康情報配信を一定期間実施した後の2017年12月に1回だけの調査とした.調査項目は基本属性(性別,年齢,勤務形態),健康情報配信メールの閲覧頻度,健康情報配信前(定期健診受診時の4~6月)と配信後(2017年12月)の2時点における睡眠,飲酒,コンビニ活用,歩数アップについて「知識の獲得(以下,知識)」「態度の変容(以下,態度)」「行動の変容」を問うた.また健康情報配信が健康管理における行動変容にどの程度の影響を及ぼしたかについて質問した.

4. 解析方法

健康情報の閲覧頻度と,年代,性別,勤務形態とのそれぞれの関連についてχ2検定を行った.年代については人数規模が概ね等しくなるよう20~30代,40代,50~60代の3群に分類し分析した.配信前後での知識の変化については,健康情報配信で取り上げた「睡眠負債」「アルコール攻略法」等について「知っている」「ある程度知っている」「少し知っている」「知らない」の選択肢から自己申告し,取り組み終了時点(2017年12月)での自己評価とした.健康情報配信前後での態度の変容については,理想的な健康行動をとるために日々どの程度工夫を行っているかについて,最大限工夫している場合を10点満点とし,配信前後の2時点でそれぞれ何点に相当するかを問うた.また行動変容については,それぞれの健康行動の実施回数について,配信前後の2時点でそれぞれどの程度実施したかを問うた.以上の配信前後2時点の知識,態度,行動についての自己申告の差について,Wilcoxonの符号付順位検定を用い比較した.統計解析には統計解析ソフトウェアSPSS Ver. 22を使用し,統計学的有意水準は5%とした.配信前後での自己評価設問に対し,配信前後のいずれかの項目に入力がないデータについては欠損値として取り扱い,該当設問の分析対象から除外した.

5. 倫理的配慮

アンケートはA社人事部長,営業管理部長,A健康保険組合理事長に口頭及び書面にて説明を行い,承諾を得て実施した.アンケートへの回答は自由参加であること,回答は無記名であり回答者あるいは回答を拒否する場合も個人を特定できない方法となっていること,無記名回答のため回答後は回答の撤回ができないことを,アンケート調査協力依頼のメール案内に添付した文書により説明し,アンケートへの回答をもって協力に同意を得たものとした.本研究は兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究倫理委員会の承認(承認番号:修士6,承認日:2017年7月21日)を得て実施した.

III. 結果

1. 活動結果

分析対象者は,本活動の健康情報を配信した支店・営業所の営業職(内勤者含む)2,212名のうち,アンケート調査に回答した871名(回答率39.4%)から,閲覧頻度の設問が無回答だった2名を除く869名(有効回答率39.3%)を分析対象とした.

1) 回答者の基本属性(表1
表1  回答者の基本属性 (N=869)
n=869(%)
年代
20~30代 196(22.6)
40代 326(37.5)
50~60代 346(39.8)
無回答 1(0.1)
性別
男性 781(89.9)
女性 87(10.0)
無回答 1(0.1)
勤務形態
外勤 724(83.3)
内勤 143(16.5)
無回答 2(0.2)
勤務形態別の年齢構成
  外勤(n=724) 20~30代 187(25.8)
40代 281(38.8)
50~60代 256(35.4)
  内勤(n=143) 20~30代 9(6.3)
40代 43(30.1)
50~60代 90(62.9)
無回答 1(0.7)

分析対象者の基本属性は,20~30代が196人(22.6%)40代が326人(37.5%)50~60代が346人(39.8%)無回答1人(0.1%)であった.性別は男性781人(89.9%)女性87人(10.0%)無回答1人(0.1%)であった.勤務形態は外勤者724人(83.3%)内勤者143人(16.5%)無回答2人(0.2%)であった.外勤者,内勤者の年齢構成は,外勤者では40代が最も多く38.8%,次いで50~60代(35.4%)20~30代(25.8%)であった.一方,内勤者は50~60代が最も多く62.9%,次いで40代(30.1%)20~30代(6.3%),無回答1人(0.7%)であり,平均年齢での比較では外勤者45.3歳に対し内勤者は51.4歳であった.

2) 基本属性と閲覧頻度の関連(表2

配信された健康情報の閲覧の有無について「欠かさず読んだ」は146人(16.8%),「時々読んだ」は580人(66.7%),「読んでいない」は143人(16.5%)であり,80%以上の人が1回は配信された健康情報を読んでいた.年代,性別,勤務形態と健康情報の閲覧頻度との関連をχ2独立性の検定にて分析した結果,性別と閲覧頻度との関連については有意な関連は見られなかったが,年代と閲覧頻度(P<0.001),勤務形態と閲覧頻度(P<0.001)には,それぞれ有意な関連が見られた.特に20~30代の若い世代より,年代が進むごとに配信された健康情報の閲覧をした人が多い傾向にあった.

表2  基本属性と閲覧頻度の関連 (N=869)
欠かさず読んだ(n=145) 時々読んだ(n=581) 読んでいない(n=143) P
n(%) n(%) n(%)
年代a
20~30代 24(12.2) 123(62.8) 49(25.0) <0.001
40代 52(16.0) 223(68.4) 51(15.6)
50~60代 69(19.9) 234(67.6) 43(12.4)
性別b
男性 125(16.0) 527(67.5) 129(16.5) 0.247
女性 20(23.0) 53(60.9) 14(16.1)
勤務形態c
外勤 97(13.4) 496(68.5) 131(18.1) <0.001
内勤 47(32.9) 84(58.7) 12(8.4)

注)χ2検定

a:欠損値n=1 b:欠損値n=1 c:欠損値n=2

3) 閲覧頻度と健康管理における知識の変化(表3

配信した健康情報に関する知識の程度は,「睡眠負債」(P<0.001)「アルコール攻略法」(P<0.001)「コンビニ活用法」(P<0.001)「歩数アップ術」(P<0.001)と配信前後で有意に増加した.閲覧頻度による差は「欠かさず読んだ(P<0.001)」「時々読んだ(P<0.001)」人は全ての項目で配信後の知識が有意に増加した.「読んでいない」人は「コンビニ活用法」では有意な差が見られず,それ以外の項目も変化の割合は非常に小さかった.

表3  閲覧頻度と健康管理における知識の変化 (N=869)
全体(n=869) P 欠かさず読んだ(n=145) P 時々読んだan =581) P 読んでいない(n=143) P
配信前n(%) 配信後n(%) 配信前n(%) 配信後n(%) 配信前n(%) 配信後n(%) 配信前n(%) 配信後n(%)
睡眠負債 知っている 160(18.4) 220(25.3) <0.001 41(28.3) 64(44.1) <0.001 89(15.4) 128(22.1) <0.001 30(21.0) 28(19.6) 0.034
ある程度知っている 165(19.0) 253(29.1) 22(15.2) 54(37.2) 135(23.3) 189(32.6) 8(5.6) 9(6.3)
少し知っている 169(19.4) 206(23.7) 30(20.7) 19(13.1) 117(20.2) 163(28.2) 21(14.7) 24(16.8)
知らない 371(42.7) 160(18.4) 51(35.2) 5(3.4) 236(40.8) 78(13.5) 83(58.0) 76(53.1)
無回答 4(0.5) 30(3.5) 1(0.7) 3(2.1) 2(0.3) 21(3.6) 1(0.7) 6(4.2)
アルコール攻略法 知っている 43(4.9) 94(10.8) <0.001 15(10.3) 34(23.4) <0.001 21(3.6) 54(9.3) <0.001 7(4.9) 6(4.2) 0.025
ある程度知っている 199(22.9) 286(32.9) 46(31.7) 72(49.7) 139(24.0) 198(34.2) 13(9.1) 15(10.5)
少し知っている 222(25.5) 215(24.7) 41(28.3) 25(17.2) 162(28.0) 170(29.4) 19(13.3) 20(14.0)
知らない 396(45.6) 260(29.9) 40(27.6) 11(7.6) 253(43.7) 149(25.7) 102(71.3) 99(69.2)
無回答 9(1.0) 14(1.6) 3(2.1) 3(2.1) 4(0.7) 8(1.4) 2(1.4) 3(2.1)
コンビニ活用法 知っている 67(7.7) 119(13.7) <0.001 14(9.7) 38(26.2) <0.001 42(7.3) 69(11.9) <0.001 11(7.7) 12(8.4) 0.180
ある程度知っている 203(23.4) 279(32.1) 45(31.0) 69(47.6) 140(24.2) 193(33.3) 18(12.6) 17(11.9)
少し知っている 234(26.9) 229(26.4) 45(31.0) 29(20.0) 160(27.6) 170(29.4) 28(19.6) 29(20.3)
知らない 352(40.5) 228(26.2) 39(26.9) 7(4.8) 229(39.6) 139(24.0) 83(58.0) 81(56.6)
無回答 13(1.5) 14(1.6) 2(1.4) 2(1.4) 8(1.4) 8(1.4) 3(2.1) 4(2.8)
歩数アップ術 知っている 81(9.3) 120(13.8) <0.001 27(18.6) 46(31.7) <0.001 48(8.3) 68(11.7) <0.001 6(4.2) 6(4.2) 0.025
ある程度知っている 237(27.3) 321(36.9) 55(37.9) 70(48.3) 162(28.0) 227(39.2) 20(14.0) 23(16.1)
少し知っている 220(25.3) 189(21.7) 33(22.8) 18(12.4) 168(29.0) 155(26.8) 18(12.6) 16(11.2)
知らない 316(36.4) 216(24.9) 28(19.3) 8(5.5) 189(32.6) 113(19.5) 98(68.5) 94(65.7)
無回答 15(1.7) 23(2.6) 2(1.4) 3(2.1) 12(2.1) 16(2.8) 1(0.7) 4(2.8)

注)Wilcoxonの符号付順位検定

a:欠損値n=2

4) 閲覧頻度と健康管理への態度の変容との関連(表4

健康情報で配信した睡眠習慣,飲酒習慣,コンビニ活用,歩数アップについて,それぞれの健康管理への態度の変容は配信前後で有意に増加した.閲覧頻度による差については「欠かさず読んだ」「時々読んだ」人は全ての項目で健康管理に対する態度の変容が有意に増加した.「読んでいない」人では睡眠習慣,飲酒習慣は,態度の変容の割合が配信後で有意に増加したが,それ以外の項目は有意な差はなかった.また睡眠習慣,飲酒習慣についても,その変化の割合は非常に小さなものであった.

表4  閲覧頻度と健康管理への態度,行動の変容との関連 (N=869)
全体(n=869) P 欠かさず読んだ(n=145) P 時々読んだ(n=581) P 読んでいない(n=143) P
配信前SD 配信後SD 配信前SD 配信後SD 配信前SD 配信後SD 配信前SD 配信後SD
態度 睡眠習慣a 4.62 2.37 5.30 2.42 <0.001 4.91 2.50 6.12 2.36 <0.001 4.72 2.26 5.39 2.28 <0.001 3.93 2.56 4.04 2.57 0.016
飲酒習慣b 4.53 2.56 5.01 2.68 <0.001 5.29 2.46 6.20 2.43 <0.001 4.67 2.46 5.13 2.53 <0.001 3.14 2.57 3.24 2.63 0.01
コンビニ活用c 4.82 2.55 5.32 2.61 <0.001 5.38 2.52 6.41 2.52 <0.001 4.91 2.46 5.40 2.45 <0.001 3.85 2.69 3.87 2.68 0.257
歩数アップd 5.02 2.71 5.48 2.76 <0.001 6.09 2.63 6.92 2.48 <0.001 5.00 2.62 5.48 2.63 <0.001 3.97 2.79 4.02 2.79 0.084
行動 睡眠時間(時間/日)e 5.69 0.86 5.83 0.86 <0.001 5.55 0.95 5.84 0.95 <0.001 5.69 0.84 5.82 0.84 <0.001 5.82 0.85 5.86 0.84 0.059
飲酒日数(日/週)f 3.61 2.59 3.54 2.56 <0.001 3.26 2.55 3.17 2.44 0.015 3.75 2.61 3.67 2.58 <0.001 3.41 2.53 3.39 2.54 0.414
コンビニ活用回数(回/10回)g 4.41 3.01 4.80 3.04 <0.001 4.89 3.09 5.52 3.06 <0.001 4.39 2.92 4.79 2.94 <0.001 4.01 3.26 4.05 3.26 0.059
歩数(歩/日)h 6035.5 3096.4 6462.3 3245.0 <0.001 6735.0 2894.5 7421.0 2893.8 <0.001 5975.2 2923.5 6369.4 2997.2 <0.001 5536.1 3825.1 5821.3 4253.0 0.003

注)wilcoxonの符号付順位検定

a:欠損値n=26 b:欠損値n=23 c:欠損値n=25 d:欠損値n=23 e:欠損値n=13 f:欠損値n=21 g:欠損値n=18 h:欠損値n=35

5) 閲覧頻度と健康行動の変容との関連(表4

行動変容については睡眠時間,飲酒日数,コンビニ利用時(直近10回のうち)健康メニューを選択できた回数(以下,コンビニ活用回数),平均歩数の全ての項目で,行動変容した人の割合が配信後に有意に増加した.閲覧頻度による差については「欠かさず読んだ」「時々読んだ」人では全ての項目で有意に増加した.「読んでいない」人では1日の平均歩数は配信後に有意な増加が見られたが,それ以外の項目については配信前後で差はなかった.

6) 勤務形態と健康管理の態度・行動の変容との関連

配信前後での健康管理の態度の変容については,健康管理の工夫をしている度合いを10点満点で自己評価し,その結果の平均値を配信前後で比較した.その結果,睡眠習慣では外勤者4.63点から5.22点(P<0.001),内勤者4.62点から5.67点(P<0.001),飲酒習慣は外勤者4.51点から4.92点(P<0.001),内勤者4.74点から5.50点(P<0.001),コンビニ活用は外勤者4.76点から5.22点(P<0.001),内勤者5.09点から5.81点(P<0.001),歩数アップは外勤者4.92点から5.33点(P<0.001),内勤者5.56点から6.25点(P<0.001)であり,全ての項目で配信前後に有意に増加した.行動変容では,睡眠時間(時間/日)は外勤者5.73時間から5.86時間(P<0.001),内勤者5.49時間から5.70時間(P<0.001),飲酒日数(日/週)は外勤者3.75日から3.69日(P<0.001),内勤者2.93日から2.83日(P=0.002),コンビニ活用回数(回/10回)は外勤者4.35回から4.70回(P<0.001),内勤者4.87回から5.35回(P<0.001),平均歩数(歩/日)は外勤者5779.6歩から6176.4歩(P<0.001),内勤者7371.4歩から7906.5歩(P<0.001)であり,いずれも外勤者,内勤者ともに健康行動をとる者の割合は配信前後で有意に増加した.また外勤者より内勤者の方が,睡眠時間が少ない,飲酒習慣が少ない,コンビニの利用率が高い,1日の平均歩数が多いという傾向が見られた.

7) 年代と健康管理の態度・行動の変容との関連

年代と配信前後での健康管理への態度の変容について分析した結果,睡眠習慣は20~30代は4.38点から4.79点(P<0.001),40代は4.44点から5.23点(P<0.001),50~60代は4.94点から5.65点(P<0.001),飲酒習慣は20~30代は4.08点から4.42点(P<0.001),40代は4.34点から4.86点(P<0.001),50~60代は5.00点から5.49点(P<0.001),コンビニ活用では20~30代は4.68点から5.01点(P<0.001),40代は4.68点から5.22点(P<0.001),50~60代は5.03点から5.58点(P<0.001),歩数アップは20~30代は4.44点から4.75点(P<0.001),40代は4.87点から5.35点(P<0.001),50~60代は5.52点から6.04点(P<0.001)と全ての項目で有意な差が見られた.行動変容については,睡眠時間(時間/日)は20~30代で5.85時間から5.95時間(P<0.001)40代は5.59時間から5.73時間(P<0.001)50~60代は5.68時間から5.85時間(P<0.001),飲酒日数(日/週)は20~30代は2.87日から2.81日(P<0.001)40代は3.72日から3.68日(P=0.003)50~60代は3.94日から3.85日(P<0.001),コンビニ活用回数(回/10回)は20~30代で4.55回から4.86回(P<0.001)40代は4.26回から4.67回(P<0.001)50~60代は4.54回から4.91回(P<0.001),平均歩数(歩/日)は20~30代で6448.2歩から6815.2歩(P<0.001)40代は5784.2歩から6188.5歩(P<0.001)50~60代は6077.0歩から6539.2歩(P<0.001)であり,全ての年代で有意な変化を認めた.年代による健康行動の特徴として,飲酒習慣は20~30代の若い世代で少なく,年代が上がるごとに多くなる傾向があった.反対に歩数は20~30代の若い世代が最も多く,40代が最も少ない傾向にあった.

8) 健康情報配信による行動変容への影響

健康管理を行う上で,今回の健康情報配信が行動変容にどの程度影響を及ぼしたかについて,行動変容に完全に影響した場合を100%,全く影響しなかった場合を0%とし,それぞれの影響の程度を調査した.最も多かったのは50%と答えた人だった(21.2%).50%未満と答えた人の割合は約6割で,それぞれ0% (15.5%),10%(11.2%),20%(12.1%),30%(13.9%),40%(5.2%)であった.一方50%以上と答えた人の割合は約4割を占め,それぞれ60%(7.1%),70% (6.8%),80%(3.2%),90%(0.8%),100%(0.8%),無回答(2.2%)であった.

IV. 考察

1. 社内メールによる健康情報配信の効果とその背景

アンケート調査の結果,A健康保険組合からの健康情報配信については80%以上の人が1回は読んでおり,欠かさずに読んだ人の割合は20%弱であった.また20~30代より40代,50~60代と年代が進むごとに読んだ人の割合が増えた.これは須藤ら(2014)が行った仕事と日常の生活場面に応じたメールマガジンを使った職域ウォーキングプログラムへの参加希望者が20~30代(20.0%)より40代(40.0%),50代(40.0%)と,年代が上がるごとに増加するという先行研究の結果でも同様である.また勤務形態による差では,外勤者よりも内勤者の方が読んだ人の割合は高い傾向にあったが,これは外勤者と比べ内勤者の方が業務上パソコンに向かう時間が長く,メールで配信された健康情報を閲覧しやすい状況であったこと,また内勤者は外勤者と比較して年齢層が高く,健康情報に関心を持つ人の割合が高かったためと考える.

健康情報配信による知識や態度の変化については「欠かさず読んだ」「時々読んだ」と答えた人では,いずれも配信した「睡眠負債」「アルコール攻略法」「コンビニ活用法」「歩数アップ術」の全ての項目について知識を持つ人の割合が増加し,一方「読んでいない」人では,「コンビニ活用法」については配信前後で有意な変化が見られず,その他の項目についても変化の割合は非常に小さかった.同様に健康管理への態度の変容についても,「欠かさず読んだ」「時々読んだ」人ではいずれの項目においても,配信後に有意に増加していた.「読んでいない」人では睡眠習慣,飲酒習慣については態度の変容の割合がわずかに増えていたが,その他の項目は変化がなかった.読んでいないにもかかわらず,知識や態度が変化した要因については,健康情報を読んだ同僚や健康管理担当者から話を聞き,それに伴って態度が変化したという健康情報配信による波及効果の可能性が考えられる.これは千葉ら(2011)が報告した,プログラム参加者から非参加者への口コミ効果が非参加者の意識や意欲の向上,行動変容に効果があったという先行研究の結果と一致している.また配信された健康情報以外の外部媒体による情報配信による影響の可能性も考慮が必要である.

さらに行動変容についても「欠かさず読んだ」「時々読んだ」人では,いずれの項目も配信後に行動変容した人が有意に増加したが,「読んでいない」人では平均歩数以外の項目での行動変容は見られなかった.「読んでいない」人で平均歩数が増加したのは,健康情報配信時期と同時期にA社で従業員へのウェアラブルデバイス配付事業が始まり,デバイス使用によるデータの可視化によって歩数を意識する人が増加したことが考えられる.

これらの結果より,営業職に特化した健康情報配信は,閲覧をした人では知識の獲得,態度や行動の変容に効果があったと言える.島崎ら(2013)は,情報媒体の「受け入れやすさ」と「有用性」が閲読行動や健康行動実施に対する自己効力感に影響すると述べている.そのため健康情報を配信する際には,対象者にあった有用性のある健康情報を対象者が受け入れやすい配信媒体で行うこと,つまり対象者自身の現状にあった情報を視覚的にも分かりやすく伝達することが,対象者の認知及び行動に影響をすると述べている.このことからも社外での営業活動で不規則な生活習慣となりやすい営業職にとって,日々のライフスタイルの中で実践が可能な健康行動を提示する情報配信は,営業職にとって受け入れやすく,健康行動への態度や行動変容に影響があったと考える.

一方,健康情報配信による行動変容の大きさの程度については,その影響はわずかであった.加えて,今回の健康情報配信による健康管理への影響についても,6割以上の人が影響の程度を50%未満と答えているため,健康情報配信の内容,方法については更なる改善が必要である.

2. 今後の取り組みへの課題

今後の取り組みへの課題として次の3点を挙げる.

第1に,今回の活動は支店・営業所の全営業職を対象に同じ内容で健康情報を配信したが,営業職の中にも健康情報に対する知識や態度の程度にはばらつきがあり,配信した内容では物足りなさを感じる営業職も見られた.今後は対象者の行動ステージや年代ごとの健康課題に応じ提供する健康情報の内容を検討する必要がある.

第2に,今回の活動は,メールでの健康情報配信であったため,一方向的な情報伝達となり,行動変容への影響力が弱かったことが考えられる.情報提供とあわせて,ウォーキングキャンペーンや健康イベントの継続的な実施など,行動変容の機会を提供しながら健康管理への働きかけを行うことで健康行動の定着が促進されると考える.

第3に,今回の結果から,営業職が健康行動を実践するには,健康情報配信という営業職個人へのアプローチだけでは十分な効果が得られにくいことが明らかになった.津田ら(2019)によると,人が行動変容を起こすためには,生物心理社会学的モデルに基づいて全体的な視野で考える必要があるとしている.営業職は他の職種と比べて長い拘束時間や休日出勤,業績を優先する職場風土など,健康管理を実践する上での阻害要因が多く存在する.このような営業職の労働環境や所属組織の風土に対して,営業本部や労務管理部門,社内産業保健スタッフ等と連携し,健康管理の阻害要因を減らしていく必要がある.

3. 実践現場で行う活動評価の課題

今回の活動の評価における課題として,今回のアンケート回答率が39.4%であったことから,健康への意識が高く行動変容しやすい者が回答した可能性があり,今回の健康情報配信による意識・態度・行動の変化を厳密に評価できたとは言えない.また本活動期間中にA社で従業員へのウェアラブルデバイス配布事業があったことも,従業員の健康意識や行動変容に影響した可能性がある.さらに,調査時期についても,アンケート調査を行った時期が健康情報配信後5か月目の12月に配信前と配信後の2時点の知識や態度,行動の変化について自己申告により問うたものであることを踏まえる必要がある.メールマガジンによる健康情報配信が歩行時間の増加に効果があったと報告した須藤ら(2014)の研究においても,自己申告による行動変容の評価については主観的評価で測定することの限界を指摘しており,歩数計や加速度計などを用いた客観的指標での評価の併用の必要性を述べている.本活動においても,今後は次年度の健診結果の変化やウェアラブルデバイスによる活動量データの変化など,客観的指標による評価が必要であると考える.

4. 職域でのポピュレーション・アプローチ実践への示唆

島崎ら(2012)は,テイラリングやターゲティングなどの対象者の状況にあった情報提供がメッセージの有用性において重要であると述べている.職域における健康管理において,労働者が1日の大半を過ごす職場環境やライフスタイル,業務特性を踏まえた健康情報を配信することは,働く人々の生活習慣改善へ一定の効果が期待できることが今回の活動から示唆された.しかし,健康情報配信のみでは行動変容に至らない課題も明らかになったことから ,今後は健康情報の配信とあわせて社内産業保健スタッフや労務管理を担う部門と連携し,長時間労働の是正やワーク・ライフ・バランスの推進など,健康管理に取り組みやすい労働環境の整備や健康管理を優先できる職場風土の醸成が,職域における健康管理を行う上では重要な要素になると考える.

V. おわりに

今回の活動は,営業職の生活習慣病予防のためのポピュレーション・アプローチとして,A健康保険組合から健康情報を配信することで営業職の健康管理に対する知識や態度の変化,行動変容を促すことを目的に実施した.その結果,健康情報を読んだ人では健康管理に対する知識,態度の変化,行動変容が認められ,職務特性に合わせた健康情報の配信が営業職の生活習慣病予防にある一定の効果があることが明らかとなった.しかし健康情報の配信のみの効果では行動変容への影響の割合は非常に小さなものであったため,今後は営業職を取り巻く様々な環境要因への働きかけも必要である.

謝辞

本取り組みの実施にあたりご協力頂いたA社営業職の皆様,A健康保険組合とA社人事部健康推進グループ(取り組み活動時の組織名称)の皆様に御礼申し上げます.またご多忙な中ご指導,ご助言頂きました山口大学大学院牛尾裕子教授をはじめ,京都大学医学研究科塩見美抄准教授,兵庫県立大学片山貴文教授に厚く御礼申し上げます.

本取り組みは 2017 年度兵庫県立大学大学院看護学研究科修士論文を加筆修正したものである.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
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