日本公衆衛生看護学会誌
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研究
乳幼児を育てる母親が認識する地域活動への参加によりもたらされたものと地域活動の特性
川崎 千恵
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2017 年 6 巻 1 号 p. 19-27

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Abstract

目的:乳幼児を育てる母親が認識する,地域活動への参加によりもたらされたものと,関連した地域活動の特性について,質的に探究し記述することを目的とした.

方法:地域活動へ参加する乳幼児を育てる母親を対象に半構造化面接を行い,データを質的帰納的に分析した.

結果:母親にもたらされたものは6つのカテゴリーで示され,気持ちのゆとりや育児の自信、地域の人とのつながり,不安の軽減、地域の人への信頼などであった。母親が認識した地域活動の特性は5つのカテゴリーで示され,母親のニーズを自然に満たす,気持ちや経験を共有しつながりを築けるようにする,気持ちを軽くする,力を得られるようにするなどであった.

結論:地域活動への参加により,母親の育児や精神的・社会的健康に変化や効果をもたらしていた.地域活動の特性は,セルフヘルプ・グループ,エンパワメント,ソーシャル・キャピタルなどの概念で説明できると考えられた.

I. 緒言

近年我が国では,地域や地域の人びと,他者との相互のつながりが希薄で,頼りにする相手がいない孤立の状態(石田,2011)にあることが問題とされる.乳幼児を育てる親にもしばしば孤立の問題が見られ,地域や他者とのつながりが希薄で,誰にも気づかれず虐待が深刻化し,子どもが死亡する事例も後を絶たない.支援が必要な乳幼児を育てる母親への支援は,主に特定のリスク因子を有する母親を対象に,保健師等の専門職により行われている.しかし,児童虐待の死亡事例にみられるように,専門職による支援の手を離れた後,しばしば問題が再発している(厚生労働省社会保障審議会,2014).心中以外の虐待死の事例は,地域社会との接触が「乏しい」,「ほとんどない」が多いと報告されており,地域や地域の人とのつながりが希薄であることが,背景にあると考えられる.乳幼児を育てる親にみられる孤立の問題は,家族の有無にかかわらず存在し,家族外の他者とのつながりの結合度や性質の変化が背景にあるとされる(野沢,2006).必ずしも個人や家族の問題ではなく,社会の変化が孤立を生み出し,社会的サポートを得ることを困難にしていると考えられている.

2000年頃から人びとの相互の信頼,人と人の分かち合い,互酬性,ネットワークが,人びとの主観的健康観,信頼感,抑うつ等に関係する(Aida et al., 2013近藤,2011)と報告されるようになり,地域保健の推進に関する基本的な指針で「地域のソーシャル・キャピタル(信頼,社会規範,ネットワーク等の社会関係資本)を活用して,住民による自助及び共助への支援を推進する」(平成24年7月31日厚生労働省告示第464号)として政策に導入された.そのため,多くの自治体で地域の人びとの相互の信頼,ネットワーク,互酬性の規範(認知的ソーシャル・キャピタル)を醸成し,健康課題の解決を図ろうとしている.

地域活動への参加と健康の関連についての先行研究は,国内外共通して高齢者を対象とするものが多い.しかし,母親の交流や仲間づくりを目的とした地域活動への参加が,産後うつの緩和(Angeley et al., 2015),うつ状態の抑制(Thuy et al., 2013),育児の習得に関係するストレスの緩和(Carpiano et al., 2012),母親のネットワーク,他者・地域とのつながりの構築(Guest et al., 2009Strange et al., 2014),孤立の解消(Strange et al., 2014),育児不安の軽減・解消(Griffiths et al., 2007)に効果をもたらすことが報告されている.また,地域との関わりが強いと感じている人やsense of community(コミュニティ感覚)が高い母親ほど,自己効力感や育児満足度が高いこと(Angeley et al., 2015),精神的な健康状態がよいこと(Mulvaney, 2005Griffiths et al., 2007),近隣の人との強いつながりを感じていることが,ストレスを緩和すること(Carpiano et al., 2012)も報告されている.sense of communityは情緒的なつながりを共有でき信頼できると感じられる地域への所属感や地域との一体感覚(MacMillan et al., 1986)と定義されており,地域活動に参加し地域の人とのつながりを築くことが,乳幼児を育てる母親への有効な支援策である可能性が考えられた.しかし,何が乳幼児を育てる母親に効果をもたらすのかについては,十分検討されていない.そこで本研究では,乳幼児を育てる母親が認識する,地域活動への参加により母親にもたらされたものと,関連した地域活動の特性について,質的に探究し記述することを目的とした.そのことによって,乳幼児を育てる母親のための地域活動の実施や,地域活動のモデルを構築する上での資料となると考える.

II. 研究方法

1. 研究デザイン

乳幼児をもつ母親が認識する,地域活動への参加によりもたらされたものと,関連する地域活動の特性についての,質的記述的研究である.

2. 用語の定義

本研究では,乳幼児を育てる母親のための活動について文献検討を行い,次の特性を持ち,地域で行われている活動を「地域活動」とした.①継続して定期的に行っており,乳幼児を育てる母親が参加できる,②乳幼児を育てる母親の育児支援と地域の人とのつながりを築くことを目的としている,③母親が親子で参加でき,地域の人や他の母親と交流し関係を深めていく機会を得られる.

3. 研究協力者

自治体やNPO法人等のWebサイト,保健師等から入手した情報に基づき,地域活動の主な運営者と考えられた当事者(母親),専門職(助産師),地域住民による地域活動をリスト化した.地域活動の運営者に連絡し活動の詳細を聞いたうえで,本研究の地域活動の定義に該当することを確認できた,運営者の職種が異なる3か所の地域活動から研究協力への同意と研究協力候補者の紹介を得た.研究協力候補者は,地域活動に継続参加する乳幼児期の第1子を育てている母親で,参加開始時は人との交流が乏しい状態だったと,運営者と研究協力候補者自身が認識している者で,同意を得られた11人を研究協力者とした.

4. 調査方法とインタビュー内容

インタビューガイドに基づき,半構造化面接を平成27年7月から8月の間に,1人1~2回1時間程度行った.参加している母親には「参加前後の自分自身の変化や参加によって得られたもの」,「地域活動のどのような特性や,運営者の工夫,配慮がそれらに関連したと感じるか」を尋ねた.インタビューの回答内容は,同意を得てICレコーダーやノートに記録した.

5. データ分析

得られたデータを逐語録に起こし,参加することにより母親にもたらされた変化や健康の側面への効果,地域活動の特性に着目して分析した.これらについて語られた文脈の箇所についてセンテンスの単位で取出し,語りの内容が表すものを要約しコード化した.コード内で意味内容の類似するものを,抽象度を上げてサブカテゴリー化した.サブカテゴリー内の文脈の意味内容や,サブカテゴリー間の類似点・相違点について検討を重ね,抽象度がより高いカテゴリーを構成した.そして,カテゴリーの再構成や融合を繰り返して統合を図り,カテゴリーを構造化した.分析の過程では,看護学の質的研究の研究者からスーパーバイズを受けた.分析結果及び解釈について,同意の得られた2か所の団体で,承諾を得られた研究協力者5人のチェックを受け,妥当性を確認した.

6. 倫理的配慮

本研究は,聖路加国際大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:15-010).研究協力の候補者には研究の主旨,拒否の権利,匿名性の保持,インタビュー中断と同意の撤回の権利,目的以外にデータを使用しないこと,結果の公表,データの保管及び破棄について口頭と文書で説明し,同意書に署名を得た.

III. 結果

研究協力者は11人で,平均年齢(SD)は36.6(±5.7)歳(27~43歳)であった.分析の結果,地域活動への参加により母親にもたらされたもの(表1)と,母親がとらえた地域活動の特性(表2)が明らかになった.本論文ではカテゴリーを【 】,サブカテゴリーを[ ],母親の語りを「 」で示した.ID#1~3を当事者が運営する活動への参加者,ID#4~7を専門職(助産師)が運営する活動への参加者,ID#8~11を地域住民が運営する活動への参加者とした.

表1  地域活動への参加により母親にもたらされたもの
カテゴリー サブカテゴリー ID
子育てについて学び自分自身が成長できる 子どもへの対応や問題への対処の仕方を学び,自分なりにやっていけるようになる 1, 2, 7, 8, 9, 10
母としてだけでなく,自分自身が成長することができる 1, 5, 10, 11
気持ちにゆとりをもって子育てができるようになる 自分の悩みや思いを他の母親と共有しながら,安心して子育てができる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
母親としての緊張を緩め,気持ちにゆとりを持てるようになる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
子どもの変化や可能性を見出し,安心感を得られる 1, 3, 8, 10
やっていけるという自信に支えられ,育児生活が満たされる 自分の子育てを肯定できるようになり,やっていけるという自信が生まれる 2, 4, 6, 8, 9, 10, 11
人との関わりのなかで育児生活が楽しいと思えるようになる 1, 2, 4, 5, 10, 11
地域で挨拶や言葉を交わせるようになり,何気ない日々の生活が楽しくなる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
人とのつながりを感じながら子育てができるようになる 時間を共にするなかで他の母親との間に絆が生まれる 1, 2, 3, 6, 8, 9, 10
一人で子育てをしているという孤独感がなくなる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9
地域に心の支えとなる居場所と育児生活の土台を得られる 1, 2, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
地域の人とつながりができ,日常の世界が変わっていく 人づきあいとともに自分の生活が変わる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 9, 10
地域の人と手助けし合えるようになる 2, 3, 5, 10
自分が暮らす地域と地域の人への思いが強まる 地域が身近になり,自分がこの地域に暮らしていると感じられるようになる 2, 3, 5, 8, 9, 10, 11
地域や地域の人に目が向き,地域のために何かしたいと思うようになる 2, 3, 4, 5, 7, 8, 9, 11
表2  母親が認識した地域活動の特性
カテゴリー サブカテゴリー ID
母親が安心して気軽に足を運ぶことができる 参加者や運営者とコミュニケーションを取りやすく,構えずに足を運ぶことができる 1, 2, 3, 5, 7, 9, 11
誰でも分け隔てなく受け入れてもらえ,開かれた場所だと感じられる 1, 3, 4, 5, 6, 7, 9, 11
家族のように,子どもと母親に対応してもらえる 2, 3, 4, 5, 8, 11
母親の子育てにおけるニーズを自然に満たす 他の母親を見て,自分の育児に取り込んでいける 1, 2, 7, 8, 9, 10
意識しなくても,自然に必要な情報を得られる 2, 6, 8, 9, 10
母親が気持ちや経験を共有し,つながりを築けるようにする 他の母親との関係を,時間をかけて深められる 1, 2, 3, 6, 8, 9, 10
他の母親と気持ちを共有し,つながりを築くことができる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 8, 9, 10
母親の気持ちを軽くして,自分に戻れるようにする 不安の種が大きくなり深刻に悩む前に解消できる 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
小出しにストレスの発散や気分転換を図り,気持ちを軽くすることができる 1, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
母親としてのプレッシャーから解放され,素の自分に戻ることができる 1, 2, 3, 4, 5, 7, 8, 11
母親が自分自身を取り戻し,力を得られるようにする 子どもだけでなく母親にも関心を向けて気遣ってもらえる 1, 2, 3, 4, 5, 7, 8, 9, 10, 11
母親が自分にも目を向け,自分自身を取り戻すことができる 1, 2, 4, 5, 7, 10, 11

1. 地域活動への参加により母親にもたらされたもの

参加することで母親にもたらされたものは,6つのカテゴリーで示された.地域活動に参加したことで母親は,【子育てについて学び自分自身が成長できる】と認識していた.身近に母親のロールモデルがなく,子育てを間近に見る経験もない中,他の母親の子どもへの接し方を見たり,自由に話をするなかで,他の母親をロールモデルにできることで,自然に[子どもへの対応や問題への対処の仕方を学び,自分なりにやっていけるようになる]と感じており,「対処の仕方も勉強になり,自分なりに吸収できた(#1)」と,自分の育児を確立していっていた.また[母としてだけでなく,自分自身が成長することができる]と感じており,人との交わりを通して「いろんな意味で自分を成長させてくれる(#5)」,「地域の人と触れ合うことで自分が育っていける(#11)」と,母親として成長するだけでなく,自分自身の変化を感じていた.

母親は,責任感から来る緊張や不安で,張り詰めた日々を送っていたが,参加することで【気持ちにゆとりをもって子育てができるようになる】と認識していた.参加することで他の人と定期的にコミュニケーションを取れ,[自分の悩みや思いを他の母親と共有しながら,安心して子育てができる]と感じていた.子育てに関する疑問や悩みが現れても,「あの人もそうだったし,まあいいかと思える.自分一人じゃ難しいけど,折り合いをつけられる(#9)」と他の母親とその都度共有できることで,こんなものだと折り合いをつけ,不安を解消していた.また,支援者や他の母親が自分と子どもに目をかけてくれるため,「安心しきっていられる.ここに来てリフレッシュでき,気持ちに余裕ができた(#1)」,「私が見ているから大丈夫と言ってくれるので,子どもと離れる時間がある.肩の荷が下りる(#7)」のように,子どもから少し目を離すことができることで,[母親としての緊張を緩め,気持ちにゆとりを持てるようになる]と感じ,「家に帰って子どもにも優しくなれる(#9)」のように,子どもへの対応も変化していた.[子どもの変化や可能性を見出し,安心感を得られる]と感じている人もいて,子どもが他の子どもや大人と交わり成長する姿をみられるため,「家に二人でいるより色々みえる.他の子と遊べるのか,などわかり安心した(#8)」と,子どもの新たな面や可能性を見出し,安心や自信が生まれていた.

また,母親は地域の人との関わりの中で【やっていけるという自信に支えられ,育児生活が満たされる】と認識していた.参加する中で多くの母親と子育てを目にし,様々な価値観,方法で育児を行う母親に出会い,画一的で絶対正しい育児はないことを知り,[自分の子育てを肯定できるようになり,やっていけるという自信が生まれる]と感じており,「色々なお母さんがいることもわかったし,人それぞれでだんだん自信を持てて行きました(#11)」という人や,「ネットでずっと調べていましたが,全然調べなくなりました.無駄に情報に振り回されなくなった気がします.ここに来ると自分はこれでいいと自分の育児に自信を持てる(#9)」と感じている人がいた.また,[人との関わりのなかで育児生活が楽しいと思えるようになる]と感じており,「この場所があることで前向きになれ,子育ても楽しいみたいな.子どもを産んでよかったな,子育てするこの生活が楽しいなと思えるのは,この活動があったからです(#4)」という人がいた.[地域で挨拶や言葉を交わせるようになり,何気ない日々の生活が楽しくなる]と感じている人もみられ,「買い物に出かけた帰りに会って挨拶するだけですけど,外に出かけるのが楽しくなった(#11)」と,顔見知りが増え人づきあいが広がることで,子育ての生活が満たされていったと感じていた.

また継続して参加する過程で【人とのつながりを感じながら子育てができるようになる】と認識していた.母親は「継続して来る中で,一緒に思いや経験,色々なことを共有して絆が生まれたと思う.これから先もまた相談したりできると思う(#5)」のように,他の母親と気持ちや経験を共有できたことで確かなつながりを得られたと感じており,親密な関係に発展する人もいて,[時間を共にするなかで他の母親との間に絆が生まれる]と感じていた.また,他の人が自分や子どもを気にかけ,子どもの成長の様子を見てもらえている実感を得て「歩く練習とかも毎日一緒にやってくださったりして,支えられているという感じがします(#9)」,「この場所で子どもを育ててもらい,この地域の人と一緒に子どもが育っていくという感覚になりました.自分だけで子育てをやっているのではないと思え,孤独な子育てから脱出できた気がする(#3)」のように,[一人で子育てをしているという孤独感がなくなる]と感じていた.さらに,自分を受け入れてもらえる場所を得られ,地域に顔見知りが増えたことで,[地域に心の支えとなる居場所と育児生活の土台を得られる]と感じていた.「ここがあって外に出れば声をかけてもらえるので,地域に居場所ができて土台がしっかりした気がする(#11)」,「地域の一員,集団の中の誰かになれたということが,すごく安心します(#2)」,「顔見知りができて,どこかで会っただけでも安心する.ちょっと話ができるだけでも,ここで生活する安心感が得られた.育児をする中での不安がちょっとした挨拶でも取り除かれる(#7)」と,地域への所属感や安心感を得て,育児の不安も解消されていた.

母親は,地域活動への参加により【地域の人とつながりができ,日常の世界が変わっていく】ことも認識していた.地域活動での出会いをきっかけに,閉ざされていた社会生活が変わり,[人づきあいとともに自分の生活が変わる]と感じており,「ここに来ることで自分の世界が広がった.知り合った人と他の活動もするようになった(#5)」のように,近隣の人づきあいが増えて世界が広がった人や,行動範囲を広げる意欲が湧き,地域での新たな行動につながった人がいた.また中には,[地域の人と手助けし合えるようになる]のように互助のつながりができ,「近所の人に子どもを預かってほしい時に頼めて,外出中見ていてくれるようになった(#3)」,「連絡を取り合い,交代で手伝ったりもするようになった(#5)」と,何かあれば助け合える関係を得られた人もいた.

さらに母親は【自分が暮らす地域と地域の人への思いが強まる】と認識していた.自分や子どもを気にかけてもらう経験や,地域に顔見知りが増えたことによって,「地域の人たちへの思いは全然変わりましたね.優しくて信頼できる人たちだと思うようになりました(#8)」,「地域が身近にもなったし,地域の人たちに対する思いも,自分が地域の一員だと思えるようになって変わってきましたね(#2)」のように,他の母親や運営者,地域や地域の人への信頼が生まれ,[地域が身近になり,自分がこの地域に暮らしていると感じられるようになる]と感じていた.また,[地域や地域の人に目が向き,地域のために何かしたいと思うようになる]と感じており,「地域や地域の人たちに関心を持つようになった(#5)」,「自分の地域をよくしたいという気持ちがあります.ゴミを拾うとか挨拶をするとか,お互い気持ちよく暮らしたいという気持ちが今はすごくあります(#2)」と,地域や地域の人に対する気持ちが変化していた.

2. 母親が認識した地域活動の特性

母親が認識した地域活動の特性は,5つのカテゴリーで示された.

活動の特性として,【母親が安心して気軽に足を運ぶことができる】が示された.母親は,地域の人が運営していることや運営者が対等に接してくれること,同じ地域に暮らす人が参加していることから,[参加者や運営者とコミュニケーションを取りやすく,構えずに足を運ぶことができる]と感じており,活動が「誰でも立ち寄って一息つける地域のリビング(#11)」として,気軽に立ち寄れる,他にはない存在と感じていた.また,児童館はグループ化していて入りづらい場合も多いが,地域活動は運営者の配慮により,[誰でも分け隔てなく受け入れてもらえ,開かれた場所だと感じられる]ものだった.様々な月齢(年齢)の子どもや地域の人が出入りし,運営者がその多様性を受け入れて柔軟に対応しており,「新しく来た人も皆ウェルカムの対応(#4)」,「色々な制限がなく,どんな子どもも来られる(#9)」,「柔軟性がありのびのび楽しめる(#1)」のように,母親にとって拒絶されず,安心して足を運び,親子でのびのび過ごすことができる場と感じていた.また,[家族のように,子どもと母親に対応してもらえる]場であり,運営者が子どもに目をかけ,家族のように叱ってくれるため,「ここで子どもを育ててもらっている感じがする(#5)」,「家族や親戚の家のようなところ(#4, 8)」と,活動を身近で安心できる場として感じていた.

また,【母親の子育てにおけるニーズを自然に満たす】が示された.母親は,[他の母親を見て,自分の育児に取り込んでいける]と感じており,他の母親の話や子どもへの接し方を通して,様々な育児観や育児方法に触れ,「色々な子育てを見られますよね.こういうやり方があるんだ,マネしたいなと思ったりする(#9)」のように,取捨選択して自分の育児に自然な形で取り込んでいけると感じでいた.そして,インターネットで調べなくても他の人の会話から情報が耳に入り,子どもの月齢に応じて必要な情報を教えてもらえて,経験談も併せて聞けるため,[意識しなくても,自然に必要な情報を得られる]と感じていた.「色々な人と交わる中で,自然に知っていることが増える(#2)」,「情報だけが流れてきてもどうしようと思うけど,どうしたかも聞ける.ここに来れば自然な形で聞ける(#9)」と,何気ない会話の中で子育てについての知識や技術などの必要が満たされると感じていた.そして,子どもの月齢を限定していないため,「0歳から5歳までの子どもがいることもいいなと思う(#2)」,「他の母親の子育てや子どもが成長していく様子を見られ,あんな風に育てるんだ,こんな風に子どもは育つんだと思え,楽になった(#8)」のように,母親のロールモデルや子どもの成長のイメージ,今後必要な情報を得られると感じていた.

【母親が気持ちや経験を共有し,つながりを築けるようにする】も活動の特性として示された.運営者の工夫や配慮により,「子どもから目を離せるので,ママ同士話せる時間がある.プログラムがあり時間が決まっていると話す時間もない.ママ同士ゆったり話せるように気遣ってくれる(#8)」,「(継続して参加できるため)続きの話をして関係を深められる(#4)」のように,母親同士が落ち着いて話せる時間を持てることや,「あまり制限がないから,自由なコミュニケーションを取りやすい(#9)」,「子どものことだけではなく,自分のこともゆっくり話せる(#7)」のように,自分自身のことも自由に話せることで,[他の母親との関係を,時間をかけて深められる]と感じていた.そして[他の母親と気持ちを共有し,つながりを築くことができる]と感じており,「自分の気持ちや経験を共感し合える(#6)」のように,継続的に会って同じ時を過ごし,他の母親と気持ちや経験を共有し,つながりを築ける場であると感じていた.

他に,【母親の気持ちを軽くして,自分に戻れるようにする】が示された.母親は,[不安の種が大きくなり深刻に悩む前に解消できる]と感じており,「些細なことを話してスコンと抜ける機会が,タイミングよく沢山ある(#2)」,「悩みを共感してもらえ,共有することで解消できる(#9)」,「保健師には電話しづらく,電話してまでと思うけど,悩みかけた時にふらりと立ち寄って,気軽に聞くことができる(#6)」と,必要を感じた時に立ち寄って悩みを共有し,ちょっとした会話をする中で,不安を早期に解消できる場と考えていた.運営者の工夫や配慮により,他愛もない話ができることで,「明るく話しかけてもらうだけでも心が軽くなる(#11)」のように,[小出しにストレスの発散や気分転換を図り,気持ちを軽くすることができる]と感じていた.また,[母親としてのプレッシャーから解放され,素の自分に戻ることができる]と感じていた.母親として責任を負い,子どもを守るという緊張の毎日のなかで,運営者の配慮により「色々な人が見てくれている.自分の息子に対するように接してくれて,片時も目を離さないでいないといけないのではなく,皆で子育てをするという感じがある(#1)」のように,子どもから目を離せる時間を持てると感じていた.そして「母親として素晴らしい人になりましょうという感じではなく,あまり母親,母親と言わない(#2)」のように,母親としてこうあるべきを強調して,母親の育児を否定し評価することがないため,母親としての緊張から解放され,「その時だけでも肩の荷が下りる.ちょっとでも自分になれる(#7)」,「子どもにとって母親が一番というのが負担になり苦しい.ここに来ると少し息を抜くことができ,自分を取り戻せる(#1)」のように,素の自分に戻ることができると感じていた.

また,【母親が自分自身を取り戻し,力を得られるようにする】が示された.母親は,自分が評価されずに分け隔てなく受け入れてもらえるうえ,「主催者が自分を気にかけてくれる(#5)」ため,[子どもだけでなく母親にも関心を向けて気遣ってもらえる]場であると感じており,自分を気遣ってもらえ,「ゆったりしていっていいですよという体制があるのが,他と違いすごく自分が癒される(#4)」のように,母親のための場所として機能していると感じていた.このことが関係して,「息子が一番,優先だったんですけど,自分も大事だと思えるようになる(#1)」のように,[母親が自分にも目を向け,自分自身を取り戻すことができる]場であると感じていた.さらに,活動内容に意見を言ったり,運営に協力する機会があり,他の母親に自分の経験を伝えられるため,「先輩ママとして必要とされているじゃないけど,ちょっと相談されるのが嬉しい(#3)」,「自分が相談に乗ってもらうだけじゃないんです.ここでは自分を活かせる(#5)」,「ここで自分にできることや役割を見つけて,次に頑張ろうと思える(#3)」のように,社会で何か役に立つことができると感じられることで,自己価値を再認識して,母親としてだけではなく,一人の人(女性)としての自分自身を取り戻し,力づけられる場と感じていた.

IV. 考察

1. 地域活動への参加により母親にもたらされたもの
図1 

母親が認識した地域活動への参加によりもたらされたものと地域活動の特性

6つのカテゴリーで示された,母親にもたらされたものは,〖子育てにもたらされた変化〗,〖精神的な健康にもたらされた効果〗,〖社会的な健康にもたらされた変化〗の3つの概念で表すことができると考えられた(図1).〖子育てにもたらされた変化〗は,育児のスキルや知識の習得,母親として人としての自己の成長,育児における自信,育児に対する肯定的感情,子育て期のQOL,子どもへの対応の変化を含むと考えられた.〖精神的な健康にもたらされた効果〗は,育児不安の軽減・解消,安心感,一人で子育てをしているのではないという気持ちを表す,孤独感の軽減・解消を含むと考えられた.また,〖社会的な健康にもたらされた変化〗は,互助の関係(互酬性),顔見知りや近隣の人づきあいの増加を示す,ネットワークの拡大,地域の一員と感じる,地域との一体感覚,地域や地域の人に関心が向き,地域や人のために何かしたいと思う,地域や地域の人への愛着を含むと考えられた.本研究の結果は,乳幼児を育てる母親の地域活動への参加とネットワークや他者・地域とのつながりの構築(Guest et al., 2009Strange et al., 2014),育児不安の軽減・解消(Griffiths et al., 2007)の関連を明らかにした先行研究とも共通しており,乳幼児を育てる母親のための地域活動は,母親の仲間づくりだけでなく,子育てや精神的な側面の健康,社会的な側面の健康に,変化や効果をもたらすと考えられた.また,近隣のネットワークと育児不安の関連(牧野,1982),近所の人との深い付き合いと孤独感の関連(佐藤ら,2014),sense of communityと精神的な健康(Mulvaney, 2005Balaji et al., 2007)が報告されていることから,本研究で示された地域活動への参加により母親にもたらされたものを表す3つの概念も,互いに関連がある可能性が示唆された.

2. 母親にもたらされたものと地域活動の特性の関係

本研究の結果抽出された,地域活動への参加により母親にもたらされた概念と,地域活動の特性の関係を考察したところ,セルフヘルプ・グループ,ソーシャル・サポート,ソーシャル・キャピタルといった既存の関連概念で説明できることが示唆された(図1).( )内は既存の関連概念の下位概念を示す.母親は,地域活動の特性として抽出された【母親の子育てにおけるニーズを自然に満たす】により,他の母親の子どもへの接し方や対応を見たり,体験を聞くことで,得た知識を自分の育児に取り入れ(体験的知識),【子育てについて学び自分自身が成長できる】と考えられた.その中で,画一的で絶対正しい育児方法や母親像はないと実感できたことと,【母親の気持ちを軽くして,自分に戻れるようにする】により,肯定的なフィードバックを得て(評価的サポート),あるべきを強いられ評価を受けることがないことが,【気持ちにゆとりをもって子育てができるようになる】に示された子どもへの対応の変化や,【やっていけるという自信に支えられ,育児生活が満たされる】に関係したと考えられた.また,【母親が安心して気軽に足を運ぶことができる】,【母親が気持ちや経験を共有し,つながりを築けるようにする】により,自分のことを話して,他の母親と感情の交流ができること(情緒的サポート)が〖精神的な健康にもたらされた効果〗に関係していると考えられた.さらに,【母親の気持ちを軽くして,自分に戻れるようにする】により,子どもを我が子のように見ていてもらえる(道具的サポート)ことで,地域や地域の人との物理的・心理的距離が縮まり,運営者や他の参加者への信頼(認知的ソーシャル・キャピタル)が育まれたと考えられた.このプロセスを経て,【人とのつながりを感じながら子育てができるようになる】,【地域の人とつながりができ,日常の世界が変わっていく】がもたらされた可能性が示唆された.また,【母親が自分自身を取り戻し,力を得られるようにする】により,自分と子どもに関心を向けてもらえる(情緒的サポート)ことや,他の母親に自分の経験を伝え,支援者の役割を得る機会を与えられて(ヘルパーセラピー原則)自己効力感が高められ(エンパワメント),育児に対する肯定的感情や自信が生まれ,【やっていけるという自信に支えられ,育児生活が満たされる】,【気持ちにゆとりをもって子育てができるようになる】がもたらされたと考えられた.また,【母親が安心して気軽に足を運ぶことができる】,【母親の子育てにおけるニーズを自然に満たす】,【母親が気持ちや経験を共有し,つながりを築けるようにする】ためには,地域活動の特性として,図1に示す活動形態,活動内容,運営者の対応,その他の特性などの内容が重要であることが示唆された(図1).

参加によりもたらされたものを示す6つのカテゴリー間にも,関連があると考えられた.【地域の人とつながりができ,日常の世界が変わっていく】は,互酬性やネットワークの拡大を表していた.ネットワークは母親の精神的な健康(Leahy-Warren et al., 2012),孤独感(佐藤ら,2014)と関連することが報告されており,〖精神的な健康にもたらされた効果〗と関連していると考えられた.また,【自分が暮らす地域と地域の人への思いが強まる】に示された地域や地域の人に対する認識は,sense of communityに近似していた.継続的な地域の人との対面や交わりが情緒的つながりを高め,sense of communityの維持を助けると報告されており(McMillan et al., 1986),運営に関わる住民や他の母親と感情や経験を共有するなかでsense of communityが高められた可能性も考えられた.Sense of communityは精神的健康と関連するとの報告から(Griffiths et al., 2007Mulvaney, 2005Balaji et al, 2007),【自分が暮らす地域と地域の人への思いが強まる】と〖精神的な健康にもたらされた効果〗の関連が考えられた.

3. 乳幼児をもつ母親のための地域活動への示唆

本研究の結果示された地域活動の特性には,様々なメンバーの参加によって多種多様の体験に根ざした知識を得られる「体験的知識」,人を援助することで力を獲得する「ヘルパーセラピー原則」などのセルフヘルプ・グループの機能(Borkman, 1976久保ら,1998三島,1997),エンパワメント,ソーシャル・サポート(情緒的サポート,道具的サポート,評価的サポート),ソーシャル・ネットワーク,他者への信頼が表れていると考えられた(図1).セルフヘルプ・グループは共通の問題を持つ当事者によって行われており,その効果について精神症状の改善や自尊感情の増大,QOLの向上等が報告されている(谷本,2004).本研究でも対面的な相互関係と対等な関係を得られたことで,セルフヘルプ・グループの機能が働き,母親の育児や精神的・社会的な健康に変化や効果がもたらされたと考えられた.また地域活動は,参加した母親に互酬性やソーシャル・ネットワークなどの認知的ソーシャル・キャピタル(稲葉,2008)をもたらしていた.このことから,地域活動に参加することで,母親のソーシャル・キャピタルが高まる可能性が考えられた.

本研究の結果,地域活動への参加により母親にもたらされたものは,育児不安や孤独感の軽減・解消,地域との一体感覚など多岐にわたった.本研究の結果を参考に,乳幼児をもつ母親のための地域活動を行うことにより,母親の子育てや健康に変化や効果をもたらし,乳幼児をもつ母親のための地域活動が,児童虐待の予防や子育てへの有効な支援策となる可能性が示唆された.

V. 結語

本研究の結果,地域活動への参加により〖母親の子育て〗〖精神的な健康〗〖社会的な健康〗に変化や効果をもたらしていた.また,母親が認識した地域活動の特性として5つのカテゴリーが抽出され,これらは既存の概念である,セルフヘルプ・グループ,エンパワメント,認知的ソーシャル・キャピタルなどの機能を実体化しているものであった.

本研究は,文部科学省科学研究費挑戦的萌芽研究(課題番号:26671050)の助成を受けて行った.本研究への協力者の皆様,ご助言を頂いた聖路加国際大学麻原きよみ教授に心より感謝申し上げます.

文献
 
© 2017 日本公衆衛生看護学会
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