日本公衆衛生看護学会誌
Online ISSN : 2189-7018
Print ISSN : 2187-7122
ISSN-L : 2187-7122
研究
児童相談所における保健師の対人支援活動の特徴と対人支援能力
―計量テキスト分析を用いて―
石井 陽子二宮 一枝富田 早苗
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2019 年 8 巻 3 号 p. 153-162

詳細
Abstract

目的:児童相談所(以下,児相)における保健師の対人支援活動の特徴および対人支援能力を具体的に明らかにすることを目的とした.

方法:児相経験保健師7人を対象に,個別の半構成インタビューを実施し,分析には計量テキスト分析と質的記述的分析を用いた.

結果:児相保健師の対人支援活動の特徴は,「保健師を意識して児相で活動する」,「個と地域をみて支援する」,「児相職員としてチームで活動する」の3つがあり,それらの活動には,ラダーに示されるアセスメント力,支援力,調整力を中心に,保健師の基本的能力としての倫理観・責任感,コミュニケーションや協調性・柔軟性,独創性・積極性・発進力,アイデンティティが基盤となっていた.

考察:実践能力の向上を視野に児相保健師の対人支援能力を捉えるには,アセスメント力,支援力,調整力のように能力を具体的に捉えること,そして基本的能力も含めた意図的な人材育成が重要である.

Translated Abstract

Objective: The present study aimed to clarify the characteristics of interpersonal support activities and specific interpersonal support competence of public health nurses at child guidance centers using quantitative text analysis.

Method: Individual semi-structured interviews were conducted with seven public health nurses with experience in working at child guidance centers. Furthermore, quantitative text and qualitative descriptive analyses were used to examine the interview content.

Results: Quantitative text analysis revealed the following three features of interpersonal support activities: “Acts with the awareness of a public health nurse at child guidance centers”, “support based on the individual and area”, and “acts as a team staff at the child guidance center.” These activities used the assessment, support, and coordination competencies shown in the ladder. In addition, the basic competencies, such as ethics/responsibility, communication, coordination/flexibility, originality/positivity/starting ability, and identity, were the sources of these competencies.

Discussion: For improving the practical interpersonal support competence of public health nurses at child guidance centers, a detailed evaluation of assessment, support, and coordination competencies may be necessary. Furthermore, specific human resource development that can improve these competencies is essential.

I. 緒言

住民ニーズの多様化・複雑化,保健医療福祉システムの変化に対応するため,保健師には高度な実践能力が求められており,実践能力において,対人支援能力は保健師の基本的能力に次ぐ基盤となっている(金川ら,2005).分散配置により,保健分野以外に配置される自治体保健師は年々増加している(石津ら,2015)が,佐伯ら(2015)は,分散配置下においても,対人支援能力を育成する必要性を述べている.

2016年に厚生労働省は,教育背景や職務経験の多様化により保健師の能力が経験年数と一様ではないことから,保健師の能力の獲得状況を段階的に整理した「自治体保健師の標準的なキャリアラダー」(以下,ラダー)を公表した(厚生労働省,2016a).ラダーは体系的な人材育成を行い,保健師の実践能力を高めるための指標として自治体での活用が期待されている.

児童福祉分野では,2000年の児童虐待防止法施行を契機に,度重なる法改正により,児童相談所(以下,児相)や市町村を中心に児童虐待防止対策が強化されている.児相への保健師配置が法律上明記されたのは2004年の児童福祉法改正により,児童福祉司の資格要件が緩和され,保健師が児相配置職員に含まれたことに始まる.2016年の同法改正を受けて示された児相強化プラン(厚生労働省,2016b)では,児相への保健師配置目標は2015年度90人から2017年度210人となり,さらに,2019年度からの児童虐待防止対策体制総合強化プランでは,保健師を児相当たり一人配置する方針が示された(厚生労働省,2018).2017年時点で児相を有する自治体69か所中,児相に保健師を配置している自治体は約7割に留まる(厚生労働省,2017a)ものの,今後,児相に配置される保健師(以下,児相保健師)は増加すると考えられる.

児相保健師に関する研究は多くはないものの,初期に児相配属となった保健師の実践活動報告からは,医療職としての役割や児相における保健師活動の基盤づくり等の活動が記されている(弘中,2009柴山,2011).一方,福祉分野の保健師は単独もしくは少人数配置であり,系統だった業務のしにくさ(小山ら,2004)や技術継承の難しさ(丸谷,2012)も指摘されている.また,児相保健師に求める専門的能力に関する先行研究(石井ら,2018a石井ら,2018b)では,統括保健師と児相所管部門責任者は,児相保健師に個別支援を主とした対人支援能力を重視していることが明らかとなったものの,対人支援能力の詳細の検討および児相保健師自身の体験と見解を明らかにする課題が残されている(石井ら,2018b).児相保健師の対人支援活動の特徴を捉え,先述のラダーを基軸として対人支援能力を具体的に導き出すことは,児相での保健師活動の可視化につながり,児相に配属される保健師に必要な実践能力向上の一助になると考える.

本研究は,児相経験保健師の語りから,児相における保健師の対人支援活動の特徴と対人支援能力を具体的に明らかにすることを目的とした.

II. 研究方法

1. 用語の定義

1) 対人支援活動

ラダー(厚生労働省,2016a)に示される対人支援活動は,個人および家族への支援と集団への支援に区別されるが,本研究の対人支援活動は,前者をいうものとした.

2) 対人支援能力

本研究における対人支援能力は,ラダー(厚生労働省,2016a)に示される対人支援活動のうち個人および家族への支援において求められる能力と保健師の基本的能力をいうものとした.

ラダーの個人および家族への支援に求められる能力は,医学や公衆衛生看護学等の専門知識に基づき個人および家族の健康と生活に関するアセスメントを行う能力(以下,アセスメント力),個人や家族の生活の多様性を踏まえ,あらゆる保健活動の場面を活用して個人および家族の主体性を尊重し,課題解決のための支援および予防的支援を行う能力(以下,支援力),必要な資源を導入および調整し,効果的かつ効率的な個人および家族への支援を行う能力(以下,調整力)の3つである.これらに加えて,対人支援能力は先述の実践能力の構造(金川ら,2005)において,保健師としての基本的能力を基盤に培われるものであることから,保健師の基本的能力を含めた.先行研究によると,統括保健師が児相保健師に重視する事柄として,主体性やコミュニケーション力,保健師としての専門性の自覚等があげられている(石井ら,2018b).また,児相における活動には子どもの人権を守る等倫理観や責任感が求められる.これらを包含する保健師の基本的能力として,本研究では,岡本(2018)が示した7つの能力のうち,アイデンティティ,倫理観・責任感,コミュニケーション,協調性・柔軟性,独創性・積極性・発信力の5つを用いることとした.理解力・判断力と分析力・統合力・効率性は,ラダーの対人支援能力に包含されると考え除外した.

2. 研究参加者

児相を有する全国69自治体の統括保健師に行った先行調査(石井ら,2018a)の結果,児相への保健師配置歴が10年以上の4自治体を選定した.4自治体の統括保健師に協力依頼を行い,児相で相談業務経験があり,管理職以外であった保健師のうち,承諾の得られた7人を研究参加者とした.任用は児童福祉司,保健師どちらも可とした.

3. 調査方法

調査期間は2018年1~2月で,インタビューガイドを用いて半構造的面接を実施した.実施内容は,研究参加者の同意を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.調査内容は,基本属性,任用,児相での役割と業務,インタビューガイドの内容は,児相で活動の際に意識していたこと,対応困難事例と対処における工夫とし,研究参加者に自由に語ってもらった.インタビューは公衆衛生看護の実務経験がある保健師教員が2~3人で行い,1人はインタビューを中心に,1~2人は研究参加者の同意を得て記録を行った.インタビュー時間は研究参加者1人につき約60分であった.

4. 分析方法

本研究では,児相における対人支援活動の特徴を捉えるために計量テキスト分析を,対人支援能力を具体的に導き出すために質的記述的分析を用いた.

計量テキスト分析は,計量的分析手法を用いてテキスト型データを整理分析し,内容分析を行う方法である(樋口,2014).計量テキスト分析を用いることで,量的分析により児相保健師の対人支援活動の特徴を捉えることができ,既に明らかになっている知見との関連や新たな気づきが客観的に明確になり,科学的エビデンスの向上につながると考えた.一方,質的記述的分析は,量的分析では汲み取ることが難しい大切にすべき事柄を示すことができる.本研究は対象者の語りの意味内容を研究者が把握し,その中から対人支援能力を導き出すために質的記述的分析が必要と考えた.

研究参加者毎に作成した逐語録から保健師活動に関する記述を抜き出し,記述内容をもとにラダーA表(厚生労働省,2016a)の6つの活動領域に整理した.そして対人支援活動に分類された逐語録データを用いて計量テキスト分析を行った.計量テキスト分析では,まず,名詞と動詞を指定して抽出語リストを作成し,出現する言語と頻度を確認した.次に,言語どうしの文脈におけるつながりをみるため,共起ネットワーク図(以下,共起図)を作成した.共起図の描写により,どの語とどの語が一緒に使われていたのかという共起に注目することができ,データ中に多く出現する主題を探ることができる(樋口,2012).共起図では,5つ以上の言語にネットワークが形成されていたグループを対人支援活動の特徴と捉えることとした.グループは,何を表すのかがわかるようネーミングを行った.そして,元データおよび言語が出現する文脈を把握するため,Keyword in Context(以下,KWICとする)コンコーダンスとコロケーション集計結果を確認しながら内容を解釈した.

次に対人支援能力を検討した.まず,対人支援活動の特徴として分類された3つの分類に,逐語録から抽出された対人支援活動に関する記述を,共起ネットワークやKWICコンコーダンスを確認しながらあてはめた.そして,対人支援能力を具体的に把握するため,各分類に整理された活動を,意味内容の類似性に基づき小分類にまとめ,内容を表すよう小分類名をつけた.そして小分類にまとめられたデータの意味内容をひとつずつ解釈し,用いられていた対人支援能力について研究メンバー全員で検討を行い導き出した.

5. 倫理的配慮

研究参加者の利便性を考慮して,インタビュー日時と場所を決めた.インタビュー場所はプライバシーが確保されることを事前に確認した.インタビュー前に口頭および文書で,研究の趣旨に加え,参加は自由意思であること,途中での中止が可能であり,その際に不利益を被らないこと,データの取り扱いは個人が特定されないよう配慮すること,得られたデータを研究外に使用しないこと,データは研究終了後5年間の保存後処分することを説明し,文書にて同意を得た.研究参加者の所属長には,文書で研究の説明を行った.調査は岡山県立大学倫理委員会の承認を得て実施した(2017年11月24日承認,承認番号:17-59).

III. 研究結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者の概要を表1に示す.研究参加者は7人で,30歳代1人,40歳代1人,50歳代5人,平均年齢は52.1歳,全員が女性であった.保健師経験年数は10~36年,児相配属時点の保健師経験年数は4~30年,児相配属期間は3~5年であった.児相での任用は保健師が4人,児童福祉司が3人であった.7人中1人は看護師経験を有しており,また,2人は児相配属を2回経験していた.

表1  研究参加者の概要
研究参加者 年代 保健師経験年数 児相配属時点経験年数注1) 任用 児相での役割・業務注2)
A 40歳代 10 4 保健師 虐待対応全般(全)
保護児童の健康管理・健康教育(保)
性的被害児の対応(保)(福)
保護者の育児支援・家庭訪問(保)(福)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)
担当事業の管理
B 30歳代 16 12 保健師 保護児童の健康管理(保)
乳幼児・精神疾患を有する保護者の同行訪問(保)
ケースの医療機関受診に同行(保)
里親支援全般(全)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)
C 50歳代 36 21 児童福祉司 児童福祉司として地区を担当(福)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)
D 50歳代 34 26 児童福祉司 児童福祉司として地区を担当(福)
ケースの心身面のアセスメント(保)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)
E 50歳代 34 27 保健師 性的被害児の支援(保)
医療機関からの通告対応(保)
地域母子保健との連絡調整(保)
里親支援(全)
児童養護施設等との連携(全)
体制整備のため会議・研修・研究を実施(全)
県内の児相を有する自治体と連絡会を開催(全)
F 50歳代 34 29 保健師 初期対応班の体制づくり
虐待初期対応全般(全)
医療機関からの通告対応(保)
保護児童の健康管理(保)
保護者の育児支援・家庭訪問(保)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)
G 50歳代 34 30 児童福祉司 児童福祉司として地区を担当(福)
保護児童の健康管理(保)
精神疾患を有する保護者の同行訪問(保)
ケース会議の開催・参加(全)
関係機関との連絡調整(保)(全)

注1)児相配属時点経験年数は,初回の配属時点の経験年数を示す.

注2)児相での役割・業務は,児相運営指針を参照し,(保)は保健師の職務内容,(福)は児童福祉司の職務内容,(全)は職種の区別はできないが児相の業務として明記されているものを示す.

2. 児相における保健師の対人支援活動の特徴

抽出語リストを表2に,共起図を図1に示す.対人支援活動に関するデータを用いて頻出後を確認した結果,1,236語が抽出され,最も出現回数が多かった言語は,名詞では「保健師」,動詞では「思う」であった(表2).また,共起図は大小9つのグループ(グループ1~グループ9)に分けられた(図1).

表2  抽出語リスト n=1,236語
抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数
保健師 33 健康 7 家庭 4
子ども 24 見る 7 介入 4
児童相談所 22 考える 7 感じ 4
思う 20 里親 7 感じる 4
言う 19 一緒 6 気持ち 4
18 関係 6 虐待 4
行く 14 仕事 6 児童 4
市町村 13 6 生活 4
保護 13 電話 6 赤ちゃん 4
医師 12 訪問 6 対応 4
医療機関 11 6 担当 4
来る 11 チーム 5 調整 4
10 会議 5 入れる 4
支援 9 関わる 5 部分 4
自分 9 基本 5 保健所 4
相談 9 行う 5 保護者 4
通告 9 視点 5 方針 4
聞く 9 心理 5 離れる 4
保健 9 動く 5 連絡 4
地域 8 福祉 5
ケース 7 面接 5
違う 7 役割 5

注1)名詞,動詞のみ抽出4回以上出現していた語で作成

注2)4回以上出現していた語で作成

図1 

対人支援活動の語りを用いた共起ネットワーク

指定条件:出現回数4語以上,描画数60,サブグラフ(modularlity)

注1)円の大きさは出現数に比例する 注2)強い共起関係ほど線は太い 注3)グループを点線で区分けする

グループ4~9は以下の内容を表す

グループ4:保護した子どもの健康を支援する グループ5:子から気持ちが離れないよう親と関わる グループ6:保護者との調整役となる グループ7:里親担当として活動する グループ8:他職種と活動を共にし「見る」 グループ9:ケースの家庭訪問を行う

5つ以上の言語に共起ネットワークが形成されていたグループは3つあり,それぞれ「保健師を意識して児相で活動する」(グループ1),「個と地域をみて支援する」(グループ2),「児相職員としてチームで活動する」(グループ3)とした.

「保健師を意識して児相で活動する」(グループ1)は,児相において自分は唯一の医療職であるという意識や保健師としての自覚が常にあり,保護された子どもの健康管理や支援,医療機関や市町村等との連絡や調整を率先して引き受ける等の活動を表していた.代表データとして,F氏の語りを以下に記す.

児相のなかで専門職で医療職は保健師だけ.そういう視点で子どもさんを見れる.例えば,一時保護をしないといけなくなった子の健康面や発達面も見れるし,保護者への育児支援というアプローチもできる.病院からの通告もかなりあるので,病院,お医者さんとの関係も難しい.亡くなった子どもさんもいるし,そういう通告も病院からくるので,医療職である保健師が出て行って調整しないといけないと思うし,市町村の保健師さんと繋いでいくのも役割.

「個と地域をみて支援する」(グループ2)は,保健師が対象の最善を考え,地域との関係のなかで支援を検討し活動することを表していた.C氏の語りを以下に記す.

いろいろな関係機関の力を借りながら支援していったかなという気がします.親子関係が主ですけど,おじいちゃんやおばあちゃん,地域の人とかを巻き込んでどうやって見守ってもらうかと.結局は子どもと家族が主役なので,その人たちがいかにその人らしく生きられるかというところで協力してもらう.あまり児相が児相がと出ていかない,ということを気をつけたわけではありませんが,そういう支援の仕方をしてきた気がします.

「児相職員としてチームで活動する」(グループ3)は,児相では保健師はチームの一員であり,援助方針会議でケースへの対応方針を立て,それに基づいて対応する等,児相職員として決められた体制のなかで活動することを表していた.A氏の語りを以下に記す.

児相のなかは割と役割が明確なんです.何事もチームで対応する体制が整っていたので,複数で家庭訪問するとか,何か起きたときにはすぐ上司を含めた会議が開かれて方針を決めたり,動きが決められるので,一人で背負うことは全くなく,相談できる時間や場所がシステム的に整えられていました.

3. 児相での活動に保健師が用いていた対人支援能力

児相での活動に保健師が用いていた対人支援能力を表3に示す.対人支援活動の特徴として分類された3つの分類毎に検討した結果,アセスメント力,支援力,調整力は全ての活動に用いられていた.さらに,保健師の基本的能力として,倫理観・責任感,コミュニケーション,協調性・柔軟性,独創性・積極性・発信力も全ての活動に用いられており,アイデンティティは「保健師を意識して児相で活動する」と「個と地域をみて支援する」活動に用いられていた.

表3  対人支援活動の特徴と対人支援能力
対人支援活動の特徴 児相における保健師の活動例(データ数48) 対人支援能力
分類 小分類
保健師を意識して児相で活動する(グループ1) 保健師の自覚に基づき行動する 任用は児童福祉司であっても児相に勤務する唯一の保健師として,ケース会議には全て出席した 支援力
アイデンティティ
倫理観・責任感
保護者が精神疾患を有する場合,自分から一緒に行きましょうかと声をかけていた
周囲から保健師,看護師として見られるため,配置されるにあたって医療的な知識を学び直した
医療職として活動する 一時保護所の子どもの健康管理,健康教育,受診の必要性の判断,感染症の健康教育や,思春期の子どもに性教育を行っていた アセスメント力
支援力
調整力
コミュニケーション
独創性・積極性・発進力
虐待通告があり,保健センターや保健所との連携,医療機関に問合わせるときは,保健師の立場で医師に聞き,担当以外の情報も共有していた
性的虐待や医療機関からの通告は初めから入り,特定妊婦や赤ちゃんとの関わり,性教育を含めた健康教育を行った
市町村の窓口は保健師が多いため,連絡調整をしていた
子どもや保護者の身体症状のアセスメントやメンタル面について,他の福祉職のケースでも援助方針会議で発言・助言を行っていた
個と地域をみて支援する(グループ2) 対象に寄り添う 精神保健の経験から,話し合いは本人を中心に行う感覚を大切にして,保護した子どもの気持ちに配慮し親代わりになっていた アセスメント力
支援力
調整力
アイデンティティ
コミュニケーション
協調性・柔軟性
児相の介入が保護者に与える影響を意識して,影響が最小限となるような介入手段や関係機関を考えて介入していた
家族として機能していた時期の強みを活かし,親族に支援を広げて家族再構築支援を行った
予防的・継続的支援の視点で対象に関わる 預けた里子の様子を確認するため,里親家庭に立ち寄っていた アセスメント力
支援力
調整力
アイデンティティ
倫理観・責任感
コミュニケーション
子どもにいいことが反映されないと児相にいる意味がないと考え,親の話を聞き,治療に連れて行き,入院中に親の気持ちが離れないよう面会に行っていた
赤ちゃんの成長発達の速さと与える影響の大きさを考え,親族に支援を広げ,子どものいい育ちが保証できるよう迅速に対応した
虐待ですという介入よりもケア的な介入のほうが後につながると考えながら危機介入を行っていた
育てたくないという妊婦の妊婦健診に同行していた
地域を基軸に支援を考える ケースが地域に帰ったときに保健師としてどうしてほしいかを考えて仕事をしていた アセスメント力
支援力
アイデンティティ
子どもと家族が主役であり,その人らしく生きられるかを考え,様々な関係機関や親戚,地域に協力してもらいながら支援を行った
児相が関与する影響を考え,関係機関から子どもの措置を求められる場合も,地域のなかでいかにみてもらえるかを考えながら介入を行ってきた
ネットワークを活用する 一人で解決できないことが多いため,抱え込まず,保健師の先輩や所長など色々な人に相談することを心がけた コミュニケーション
協調性・柔軟性
独創性・積極性・発進力
保健師は一人配置のため,保健所勤務時代に培ったネットワークを活用して事例の相談をした
信念をもち活動する 周りの職員から訪問する意味を問われたとき,自分はこう考えるから行くと言って訪問していた 支援力
アイデンティティ
倫理観・責任感
面接に来た人や,なかなか話の中心部分を言わない人に,時間をかけながら生活のなかのしんどさや相談者の思いを引き出していた
児相職員としてチームで活動する(グループ3) チーム体制のなかで活動する チーム体制が基本のシステムのなか,援助方針会議による処遇決定,他の職員の知識をもらい知識や技術を積み上げた アセスメント力
支援力
調整力
コミュニケーション
協調性・柔軟性
月1回は話し合いを行い,福祉と保健の異なる視点から生じる見解の違いをすり合わせていた
福祉と保健の視点の違いを感じながらも,保健師の視点や考えを示しながら福祉職と一緒に活動した
児相の業務を遂行する 虐待の調査や通告が入ってきたとき,支援レベルや支援内容,支援に必要な関係機関をアセスメントシートを記入しながら支援計画を組み立てた アセスメント力
調整力
市町村の要保護児童対策協議会に参加していた
複雑な事例の最適を考え支援を行う 預かる責任感をもち,子どもから親の気持ちが離れないようスピード感をもって対応する一方,こじれないように親と向き合った アセスメント力
支援力
倫理観・責任感
コミュニケーション
独創性・積極性・発進力
親が傷つかないよう児相の介入は最小限にしたいと考え,市町村の育児支援につなぎ,必要なときに児相が介入する体制をつくり,通告先に納得してもらった

注1 分類の( )内のグループ番号は図1のグループを示す.

IV. 考察

1. 児相における保健師の対人支援活動の特徴

児相における保健師の対人支援活動の特徴を明らかにするため,計量テキスト分析を試みた結果,「保健師を意識して児相で活動する」,「個と地域をみて支援する」,「児相職員としてチームで活動する」の3つが確認された.計量テキスト分析では,結果を解釈する際の留意点として元データに戻って確認していくことがあげられている(樋口,2012).本研究では,この基本に従って分析を進めた結果,これら3つは児相における保健師活動の特徴と言えるとともに,活動を遂行する保健師の思いや判断を垣間見ることができた.以下,それぞれについて考察する.

「保健師を意識して児相で活動する」は,児相においても自分は保健師であるとの自覚や唯一の医療職という意識のもと,保健師が保護された子どもの健康管理や支援,医療機関や市町村等との連絡や調整を率先して引き受ける等の活動を表していた.福祉分野に配属された保健師は,求められる役割の不明瞭さや専門性を発揮できないジレンマ等により職業的アイデンティティの揺らぎを経験することが報告されている(國府ら,2016).児相保健師も同様の状況に陥る危険が考えられるものの,F氏の語りや他の活動例は,児相保健師が,児相にいても自分は保健師であるという自覚のもと,能動的に活動を行っていたことを示していた.また,児相運営指針(厚生労働省,2017b)では,保健師は公衆衛生や予防医学的知識の普及,子どもの健康・発達面のアセスメントとケア,一時保護下の子どもの健康管理,市町村や医療機関との連絡調整等が職務内容に示されている.児相保健師は先行研究の知見(弘中,2009柴山,2011)同様,児相保健師の役割とされる医療職としての職務を遂行していた.宮腰は,児相に保健師を配置している自治体の利点として,医療機関や市町村保健分野との連携が円滑になったこと,子どものアセスメントや健康教育等ケアの充実,援助方針会議で多角的な検討が可能となったこと等をあげている(宮腰,2018).以上のことから,保健師としての自覚を失わず,医療職としての視点を活かし積極的に活動することは,児相保健師の活動の特徴であり,重要と考える.

「個と地域をみて支援する」は,保健師が対象の最善を考え,地域との関係のなかで支援を検討し活動していたことを表していた.個と地域を連動して捉える視点は保健師活動の基本である.中板(2011)は,分散配置により保健師の責任範囲が地域ではなく,業務や事業となり,全体の最適を考える必要がなくなった気分にさせてしまう危険性を示している.しかしながら,保健師は,児相においても対象者を中心に最善の支援を考え実践していた.福祉分野に配属された保健師は,最終的に保健師の普遍的な役割に気づき,どこの部署でも保健師の視点で活動し,組織の中で役割を開拓する発想にいたっていた(國府ら,2016).C氏のように児相においても自分が大切に思う支援の形を継続することが重要であり,そうすることが児相の支援が有効に機能することにつながると考える.保健師のこのような視点がケース対応に活かされるためには,チームのなかで保健師が思う支援を発信することも重要であろう.

「児相職員としてチームで活動する」は,児相では保健師はチームの一員であり,援助方針会議で立てられた方針に基づいて対応する等児相職員として,決められた体制のなかで活動することを表していた.チーム協議による判定,援助方針の決定,それに基づく援助は児相の専門性を支える大きな柱である(厚生労働省,2017b).児相職員としてチームの中で活動することは,児相に配属された保健師がまず認識すべき事柄であり,そのうえで,チームにおいて保健師だからできること,すべきことを考え活動していくことが児相保健師には求められると考える.

2. 児相における保健師の対人支援能力

対人支援能力をアセスメント力,支援力,調整力,アイデンティティ,倫理観・責任感,コミュニケーション,協調性・柔軟性,独創性・積極性・発信力で検討した結果,アセスメント力,支援力,調整力の3つ,すなわちラダーに示される対人支援能力は,分類された全ての活動に用いられていた.児相では,相談や通告を受け援助活動が展開されるが,それは調査,診断,アセスメントに始まり,援助方針の作成,援助活動と一連の流れで展開される(厚生労働省,2017b).アセスメントは危機状態や緊急性の判断を含み,その後の援助方針に関わる重要な過程である.また,援助活動において対象に寄り添った支援や,児相以外の地域や関係機関を巻き込んだ支援を展開するには,支援力や調整力も重要である.アセスメント力,支援力,調整力はいずれも児相保健師にとって必須かつ重要な専門的能力と考える.これら能力の育成を考えるならば,対人支援を児相配属前に経験できるような配置を検討する等,意図的な人材育成が重要と考える.

また,保健師の基本的な能力として倫理観・責任感,コミュニケーション,協調性・柔軟性,独創性・積極性・発信力も全ての活動に用いられ,アイデンティティは「保健師を意識して児相で活動する」と「個と地域をみて支援する」に用いられていた.児相の援助活動は子どもの権利擁護を目標に行われる(厚生労働省,2017b).保健師の語りからは,生命や人権を護る活動を最重要と捉え,その意識が保健師の倫理観・責任感につながっていたと考える.また,児相の特徴であった児相職員としての活動はチーム体制であることや,様々な関係機関を巻き込み支援を展開することから,コミュニケーションや協調性・柔軟性も重要な能力である.さらに,いずれの保健師も独創性・積極性・発信力を用いて能動的に活動を行っており,このような活動の背景には,アイデンティティの存在が考えられた.以上から,これら保健師の基本的能力は上述のアセスメント力,支援力,調整力を発揮するための基盤になっていると考えられた.

今回,「児相職員としてチームで活動する」ことは,児相の対人支援活動の特徴のひとつであることが明らかとなった.保健師の人材育成計画策定ガイドライン(国立保健医療科学院,2016)では,組織人としての活動は行政組織に働く職員の共通の活動とされており,必要な能力として,組織の使命を理解し,組織の一員としてメンバーシップをとることができること等があげられている.児相保健師の実践能力向上を考えるならば,児相職員としての能力も対人支援能力とは別に検討する余地があると考える.

今回,計量テキスト分析を用いて,児相活動の語りから対人支援活動の特徴を明らかにした.本研究の研究参加者は7人と少なかったが,研究参加者の選定基準を揃え,任用は児童福祉司3人,保健師4人とバランスが取れていたことから,配置状況が自治体により様々な児相における保健師の対人支援活動の特徴は明らかにできたのではないかと考える.しかしながら,対人支援能力の詳細は,対人支援活動の語りから導き出したため分析方法には限界があった.対人支援活動と同様に計量テキスト分析を用いた分析を可能にするためには,インタビュー内容を工夫することが今後の課題である.

V. 結語

児相における保健師の対人支援活動の特徴と対人支援能力を具体的に明らかにすることを目的に,計量テキスト分析と質的記述的分析を行った結果,以下のことが明らかとなった.児相における対人支援活動の特徴は,「保健師を意識して児相で活動する」,「個と地域をみて支援する」,「児相職員としてチームで活動する」の3つが導き出された.また,児相保健師の対人支援能力は,アセスメント力,支援力,調整力を中心に,保健師の基本的能力としての倫理観・責任感,支援の輪を広げて援助を展開するためのコミュニケーションや協調性・柔軟性,積極的に活動する独創性・積極性・発信力,そして児相においても自分は保健師であるというアイデンティティが基盤となっていた.

謝辞

本研究にご協力くださいました7人の研究参加者の皆様に心より感謝申し上げます.

本研究は,平成29~30年度川崎医療福祉大学医療福祉研究費の助成を受けて実施した.

本研究に開示すべきCOI状態はない.

文献
 
© 2019 日本公衆衛生看護学会
feedback
Top