日本公衆衛生看護学会誌
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研究
子ども虐待ハイリスク家族に対する市町村保健師の関係機関との連携の取り組み
千葉 栄子桂 晶子安齋 由貴子
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2020 年 9 巻 1 号 p. 10-17

詳細
Abstract

目的:市町村保健師が行う子ども虐待ハイリスク家族に対する関係機関との連携の取り組みを明らかにする.

方法:虐待ハイリスク家族に対して関係機関と連携して支援を行った経験のある市町村保健師6名に半構造化面接を行い,データを質的記述的に分析した.

結果:保健師は連携の必要性を的確に判断し【連携相手と手を組む】ことを積極的に行っていた.複雑な背景をもつ母子と関係機関が確実につながるよう両者に働きかけ【下地を整えつなぐ】ことを行っていた.【協働支援の体制をつくる】取り組みをし,母の意向を尊重しながら【虐待予防に向けた協働支援】を行い,【協働支援の評価】を実施していた.また日頃の活動を通して【円滑な連携に向けた土台づくり】を行っていた.

考察:保健師は,効果的に連携を行うため日頃の活動から信頼関係構築を図るように心がけていた.また,困難感を伴う支援に対し職場内外からのサポートの有無が重要であると示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This qualitative study aimed to describe how municipal public health nurses collaborated with institutions to support families at a high risk of child abuse.

Participants and Methods: Semi-structured interviews were conducted with six municipal public health nurses to understand how they developed working relationships with institutions to support families at a high risk of child abuse. Qualitative and descriptive analyses were employed using the data that was obtained.

Results: The nurses were found to have made correct decisions on the fly about whether such collaboration was necessary and, if necessary, to “cooperate actively with possible partners.” By encouraging both mothers and their children with complicated backgrounds and the institutions to reliably link together, the nurses “paved a road to bridge both.” They worked to “make a system for cooperative support.” With the sentiments of mothers in mind, they “cooperatively supported them to prevent child abuse” and made an “evaluation of their cooperative support.” Through their daily activities, they also “set the stage to engage themselves in smooth collaboration.” Moreover, the results suggest that when they had difficulty supporting their clients, it was important that they felt supported both within and outside of their workplaces.

Discussion: The public health nurses interviewed for this study undertook efforts to build trusting relationships with institutions concerned about their daily activities to enhance the effectiveness of their collaborations.

I. はじめに

全国の児童相談所における,子ども虐待相談は,年々増加の一途をたどり,平成28年度に対応した児童虐待の件数は,12万件を超えた(厚生労働省,2017a).また,平成29年8月に公表された「子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第13次報告の概要)」によると,死亡時の年齢は,0歳児が57.7%と最も多く,主たる加害者は実母が50.0%と最も多かった.また,加害者である実母の心理的・精神的問題等では,養育力の低さが41.7%,次いで育児不安25.0%であった(厚生労働省,2017b).

日本子ども家庭総合研究所(2014)は,虐待が起きてから養育環境の改善を図ることは困難であるとし,虐待予防の視点の重要性を指摘している.また,虐待を防止するためには市町村が保健医療福祉の連携体制を整備することが極めて重要であると述べている.子ども虐待の背景には,母親が妊娠期から一人で悩みを抱えていたり,産前産後の心身の不調,家庭環境に問題がある場合も少なくない.母子手帳交付や乳幼児健康診査等を通して多くの親子に接する市町村保健師(以下,保健師とする)は,母の心身の状況や社会的背景,養育能力を妊娠期から把握できる.そのため,子ども虐待ハイリスク家族を早期に発見し,多機関と連携して予防的支援へと結びつけることができる立場にある.

しかし,母子保健事業には経験の浅い新任期の保健師が配属される場合も少なくないため,永谷(2009)山城ら(2008)は,子ども虐待の対応に対する苦手意識や支援技術不足等の保健師の課題を指摘している.実際,全国市区町村の母子保健担当保健師を対象とした調査では94.4%が児童虐待事例の支援に困難感を感じていたと報告している(有本ら,2018).また,文献研究により保健師活動を整理した有本(2007)は,子ども虐待における保健師の活動には多様な機関との連携が多くみられたと述べる一方で,連携・調整が困難であり徹底されていないことが課題であるとも指摘している.保健師を対象とした子ども虐待支援の連携に関する研究では,連携の実態を明らかにした量的研究(小笹ら,2016),助産師や保育士など特定の職種との連携に焦点を当てた質的研究(大友ら,2013尾形ら,2011)等が報告されてはいるが,研究の蓄積は十分とは言えない.保健師が行う支援の要は,子ども虐待ハイリスク家族を早期に発見し,関係する多機関と連携して家族を支援し虐待を防ぐことである.虐待相談件数が増加するなか,虐待防止の実践に役立つ保健師活動の知見をさらに蓄積することが求められる.

そこで本研究は,子ども虐待ハイリスク家族に対して,保健師がどのように関係機関と連携し支援を行っているのか,保健師の連携に関わる具体的取り組みを明らかにすることを目的とする.これにより子ども虐待ハイリスク家族を支援する際の関係機関との連携のとり方や連携促進への示唆が得られるとともに,子ども虐待防止への一助となると考える.

II. 研究方法

1. 用語の操作的定義

1)子ども虐待ハイリスク家族:育児困難等から虐待へ発展する可能性の高い要因を持つ家族とする.なお,佐藤(2002)は,虐待ハイリスクの「事例の中にはすでに虐待を受けている事例が混在する」と述べており,本研究においても,保健師が虐待のハイリスクとして語った家族の中には虐待の発生が疑われる事例が含まれる.

2)連携の取り組み:連携とは「同じ目的を持つ者が互いに連絡をとり,協力し合って物事を行うこと(新村,2018)」である.そこで連携の取り組みとは,保健師が関係機関と互いに連絡をとり,協力し合って子ども虐待ハイリスク家族に対して行う取り組みと関係機関に対して行う取り組みとする.なお,取り組みに至る保健師の判断,および意欲や感謝等の感情も含むものとする.

3)関係機関:子ども虐待ハイリスク家族の支援に向けて,あるいは支援の際に保健師が関わりをもった機関・組織(児童相談所,医療機関,保育園等)およびその職員を総称して関係機関と表現する.また,虐待防止等を図る上で民生児童委員や地域住民の協力も時に必要となることから,本研究では民生児童委員,地域住民等の関係者も含める.なお,関係機関を対象者側からの視点で述べるときは社会資源という表現を用いる.

4)協働:「異なる専門職・機関・分野に属する二者以上の援助者や時にはクライエントをまじえ,共通の目的・目標を達成するために,連携をおこない活動を計画・実施する協力行為(中村,2012)」とする.

2. 研究デザイン

半構造化面接調査による質的記述的研究とした.

3. 研究協力者

研究対象者は,A県内の2市町村の保健師で実践経験を5年以上有し,4歳未満の子ども虐待ハイリスク家族に対して関係機関と連携を図り支援を行った経験を持つ者とした.

4. 調査方法

半構造化面接によりデータ収集を行った.研究協力者には,子ども虐待ハイリスク家族に対して関係機関と連携を図り支援した事例を1例想起してもらい,事例の概要と自身が行った連携の取り組みの詳細を語ってもらった.面接内容は研究協力者の同意を得てICレコーダーに録音した.面接時間は40分~90分であった.調査期間は平成27年10月1日~平成27年12月28日であった.

5. 分析方法

録音データから逐語録を作成した.これを熟読し「関係機関との連携の取り組み」の語りを抽出した.一つの意味内容の文脈を分析単位とし,その意味を損ねないよう留意してコードを作成した.コードの類似性・相違性を継続的に比較し類似したコードを集めてサブカテゴリーを形成した.さらにサブカテゴリーの類似性・相違性の比較を繰返しカテゴリー,コアカテゴリーへと抽象度を上げた.

分析はその信用性,確実性を確保するため公衆衛生看護学の研究者及び質的研究に精通した研究者を含め複数人で行った.また,メンバーチェッキングを受け,カテゴリー化の見直し及び修正を図った.

6. 倫理的配慮

本研究は宮城大学研究倫理専門委員会の承認を得て実施した(承認番号:第1823号,平成27年3月30日).研究協力の依頼の際は,研究協力者及びその協力者が所属する機関の長に対して研究内容,倫理的配慮等の説明を十分行った.研究同意書への署名をもって研究協力者の同意を得た.面接は研究協力者が指定する日時としプライバシーが保てる個室で行った.また,逐語録等の研究に係るデータのうち個人の特定につながる情報は全て記号にて表記し,個人情報保護を徹底した.

III. 結果

1. 研究協力者の属性(表1

研究協力者は6名であり,性別は全て女性,年齢は30歳代1名,40歳代5名であった.市町村保健師としての経験年数は16~24年の範囲で,平均年数は21.5±3.0年であった.

表1  研究協力者の属性
No 性別 年齢 市町村保健師の経験年数
1 女性 40歳代後半 23年
2 女性 40歳代前半 20年
3 女性 30歳代後半 16年
4 女性 40歳代後半 24年
5 女性 40歳代後半 23年
6 女性 40歳代後半 23年

2. 研究協力者が語った事例の概要(表2

虐待の種類(今後発生の可能性がある,あるいは既に発生が疑われる虐待の種類)は,ネグレクトが2事例,心理的虐待3事例,特定妊婦(妊娠期から子ども虐待防止の観点から支援が必要な者)1事例,養育状況が不適切2事例であった.虐待ハイリスク者はすべて実母であった.

表2  研究協力者がインタビューで語った事例の概要
No 虐待の種類* 虐待ハイリスク者 子どもの年齢** 連携した関係機関
1 ネグレクト 実母 0歳 保健福祉事務所,医療機関(心療内科医),乳児院,児童相談所
2 心理的虐待 実母 3歳 保育所,医療機関(小児科医)
児童発達支援通所施設,児童相談所
3 心理的虐待
不適切な養育
実母 1歳 転入前市町村(保健師),民生児童委員,警察署,家族の職場(保健師),児童相談所,医療機関(精神科医)
4 (特定妊婦) 実母 (妊婦) 医療機関(助産師),児童福祉担当課,他の市町村(保健師)
5 心理的虐待
ネグレクト
実母 3歳 児童発達支援通所施設
6 不適切な養育 実母 0歳 児童福祉担当課,医療機関(心療内科医),児童相談所

* 今後発生の可能性がある,あるいは既に発生が疑われる虐待の種類

** 保健師が関わり始めた時点の子どもの年齢

保健師が子ども虐待ハイリスク家族への支援において連携を図った関係機関は,児童相談所,保健福祉事務所,医療機関,保育所,民生児童委員等であった.

3. 子ども虐待ハイリスク家族に対する市町村保健師の関係機関との連携の取り組み(表3

6つのカテゴリーが抽出された.具体的には【連携相手と手を組む】【下地を整えつなぐ】【協働支援の体制をつくる】【虐待予防に向けた協働支援】【協働支援の評価】【円滑な連携に向けた土台づくり】である.以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》,2次コードを〈 〉,1次コードを「 」で示す.

表3  子ども虐待ハイリスク家族に対する市町村保健師の関係機関との連携の取り組み
カテゴリー サブカテゴリー 2次コード 1次コード(代表的なコードを掲載)
連携相手と手を組む ネットワークを活かした対象把握 多様な関係機関から寄せられる情報を受け取る 関係機関から虐待ハイリスク家族の情報が寄せられる
同市の関係部署から虐待ハイリスク家族の連絡を受ける
地域住民からの虐待ハイリスク家族の情報が寄せられる
ネットワークを介してより詳しい情報を掴む より詳しい情報を関係機関に求める
民生委員を介して地域の状況を把握する
連携の必要性の判断 対象の利益と効果的支援を図るため連携が必要だと判断する 母親を理解する支援者が増えることが本人にとって望ましいと判断する
多機関が関わることで早期に母子のSOSに気づける
複雑な問題を解決するために関係機関との連携が必要だと判断する
支援者の安全性の観点から連携が必要だと判断する 支援者の負担軽減と安心感を図るため他機関と連携が必要だと判断する
支援者の危険回避を図るため他機関との連携が必要だと判断する
連携相手を支援に取り込む 対象のニーズに即した連携機関を検討する サービス利用に対する母親の受けとめ方を把握する
家族の状況をアセスメントし必要な社会資源を見極める
適切に対象のニーズを把握し連携する機関を検討する
協働の姿勢を伝え支援の協力を求める 共に対象の支援を行っていく意向を関係機関に伝え協力を求める
協働の姿勢を児童相談所に伝え専門的な支援を求める
下地を整えつなぐ つなぐための下地調整 支援が円滑に受けられるよう事前に関係機関へ働きかける 事前に母親の特性を関係機関へ説明し適切に支援が受けられる準備をする
円滑に社会資源につながるよう事前に母子の状況を関係機関へ説明する
社会資源の主体的利用に向けて対象の気持ちを動かす 社会資源を主体的に利用するよう活用のし易さを母親へ説明する
社会資源を活用する利点を具体的に説明する
ニーズに即した機関へつなぐ 対象のニーズに即した関係機関へつなぐ 母親の課題解決に有効な関係機関と母親をつなぐ
緊急保護時は直ちに専門機関へ支援要請する 緊急性が高く要保護と判断した場合は直ちに児童相談所へ支援要請する
関係機関と関係機関をつなぐ 適切な支援を行える他機関を関係機関へ紹介する
協働支援の体制をつくる 連携を円滑にする情報共有 個人情報に留意して情報共有を図る 母親の個人情報に留意して関係機関と必要な情報提供を図る
事前に対象の了解を得て関係機関と情報共有を図る
細やかな情報共有により連携の円滑化を図る 対象の最新状況を共有できるよう情報の橋渡しを行う
連携が円滑に行われるよう対象の現状を細やかに交換する
後方支援の授受 専門機関から支援に対する助言を受ける 児童相談所へ相談し助言を得る
医師に相談し助言を受けることで支援の見通しを持つ
関係機関の支援上の相談にのる 関係機関からの相談に一緒に考え助言する
見立てや立場の相互理解 関係機関の見立てや支援方針を把握する 児童相談所の支援方針や支援範囲を把握する
関係機関が母親をどのように受け止めているか把握する
支援の方向性や重要性における関係機関の認識の違いを理解する
保健師の見立てや支援の限界を説明する 保健師が捉える対象の見立てや状況を関係機関に説明する
市町村保健師のできる支援の限界を関係機関に説明する
支援目標と役割の明確化 支援の方向性や目標をすり合わせる 関係機関を巻き込んで支援の方向性を検討する
関係機関と優先すべき支援目標を共有しすり合わせる
専門性や過重な役割の観点から役割分担の必要性を判断する 役割分担をすることで支援者の負担の軽減が図られると判断する
役割分担することで専門性を発揮した支援ができると判断する
専門性や強みを活かした役割を明確にする 関係機関の特性を活かした役割分担をする
民生委員へ親子の見守りを依頼する
保健師の専門的立場からの判断と支援を関係機関から求められる
虐待予防に向けた協働支援 予防的視点による保健師の専門性発揮 問題発生に備え先回りして手を組み支援環境を整える 必要時,速やかに母子の情報が保健師に届く体制を整える
産後の養育能力不足を予測し必要な支援を関係部署と協議する
虐待予防の直接的支援と調整的役割を遂行する 母子の状況に即した直接的で具体的な虐待予防の支援を行う
母親の意向を尊重した支援がなされるよう関係機関へ連絡調整する
役割分担したことで保健師は調整に専念する
虐待予防に向けた重層的支援 危険回避と養育向上の支援を協働で行う 虐待予防と危険回避に向けた支援を協働で行う
母親のできることに着目し養育意識を高める支援を協働で行う
関係機関と重層的に虐待予防の支援を行う 職場内外の関係者と合意した虐待予防の支援を重なり合いながら行う
母親が適切に受療できるよう関係機関が互いに支援を行う
協働支援の評価 協働支援の評価 連携体制を振り返る 母子への週末対応における協力体制の不足を反省する
情報共有を図ることで良好な連携が取れたと判断する
関係機関との普段の取組みが円滑な連携につながったと評価する
対象の状況から協働支援を評価する 協働の支援によって母子への支援目標が早期に達成できたと評価する
協働して支援することで母親の生活リズムの改善が図られたと判断する
円滑な連携に向けた土台づくり 普段からの信頼関係づくり 普段から顔の見える関係性をつくる 関係機関を交えた会議を定期的に開催する
母子保健事業を通して助産師と顔の見える関係ができたと判断する
誠意ある対応により信頼関係を築く 関係機関に対し日ごろから誠意ある対応を心掛ける
お互いに感謝の気持ちを伝え関係機関と良好な関係を築く
対象の支援を通して関係機関と信頼関係をつくる
協働に向かう意識の醸成 協働の成果と心理的サポートが次の支援への意欲を増大させる 協働支援の達成感により次の支援への意欲が湧き上がる
協働支援を行った関係者に対し「支えられた」「助けられた」と感謝を抱く
母子保健に対する保健師役割の自覚を強める 対象と関係を築き,寄り添った支援を行う役割があると認識を強める
子どもの生命を守り健全な育成を促す役割があると認識を強める
関係機関との連携技術を磨く必要があると実感する

1) 【連携相手と手を組む】

このカテゴリーは,ネットワークを活かして支援対象者を把握すると共に,連携する関係者を支援に取り込むまでの取り組みである.これは《ネットワークを活かした対象把握》《連携の必要性の判断》《連携相手を支援に取り込む》の3つのサブカテゴリーから構成された.

保健師は,病院や保育所等の関係機関,住民など〈多様な関係機関から寄せられる情報を受け取る〉.また〈ネットワークを介してより詳しい情報を掴む〉というように受動的な情報の把握だけではなく,そこからさらに意図的,能動的に情報を収集していた.このような《ネットワークを活かした対象把握》により保健師は支援すべき家族を的確に捉えていた.

また,「多機関が関わることで早期に母子のSOSに気づける」等保健師は〈対象の利益と効果的支援を図るため連携が必要だと判断する〉.その一方で〈支援者の安全性の観点から連携が必要だと判断する〉ことも行っていた.このように《対象・支援者双方向からの連携の必要性の判断》がなされていた.

続いて保健師は,「家族の状況をアセスメントし必要な社会資源を見極める」等〈対象のニーズに即した連携機関を検討する〉.その上で関係機関に対して自らも積極的に支援に関わっていく意向を伝える等〈協働の姿勢を伝え支援の協力を求める〉ことを行っていた.このように《連携相手を支援に取り込む》ことによって関係機関との連携を開始していた.

2) 【下地を整えつなぐ】

このカテゴリーは,対象者と関係機関,あるいは関係機関同士をつなぐ保健師の取り組みであり,《つなぐための下地調整》《ニーズに即した機関へつなぐ》の2つのサブカテゴリーから構成された.

保健師は,〈支援が円滑に受けられるよう事前に関係機関へ働きかける〉取り組みをしていた.具体的には母親の性格特性を十分に理解し,それを前もって関係機関に説明していた.一方,母親には「社会資源を活用する利点を具体的に説明する」等〈社会資源の主体的利用に向けて対象の気持ちを動かす〉ことを行っていた.このような《つなぐための下地調整》によって対象者と関係機関を円滑に,確実につなげる支援がなされていた.

そして,〈対象のニーズに即した関係機関へつなぐ〉ことや,〈緊急保護時は直ちに専門機関へ支援要請する〉タイムリーな連携を行っていた.また,「適切な支援を行える他機関を関係機関へ紹介する」というように関係機関同士をつないでいた.このように対象者,時に支援者も含め,その《ニーズに即した機関へつなぐ》取り組みを保健師は行っていた.

3) 【協働支援の体制をつくる】

このカテゴリーは,関係者間の話し合いの場を設けて合意形成を図る等,保健師がコーディネート機能を発揮して協働支援の体制を整える取り組みである.《連携を円滑にする情報共有》《後方支援の授受》《見立てや立場の相互理解》《支援目標と役割の明確化》の4つのサブカテゴリーから構成された.

保健師は,協働支援を行うためには関係者間での共通認識が不可欠と考え〈個人情報に留意して情報共有を図る〉ことを前提に《連携を円滑にする情報共有》を行っていた.また,医師や児童相談所等〈専門機関から支援に対する助言を受ける〉一方で,〈関係機関の支援上の相談にのる〉ことも行っていた.このように関係機関と保健師との間には《後方支援の授受》がなされていた.

さらに,協働支援に向けて保健師は,〈関係機関の見立てや支援方針を把握する〉とともに〈保健師の見立てや支援の限界を説明する〉ことにより《見立てや立場の相互理解》を図っていた.また,〈支援の方向性や目標をすり合わせる〉一方で,各機関の〈専門性や過重な役割の観点から役割分担の必要性を判断する〉〈専門性や強みを活かした役割を明確にする〉ことを行っていた.このような取り組みによって《支援目標と役割の明確化》がなされていた.

4) 【虐待予防に向けた協働支援】

このカテゴリーは,関係機関と協働で対象者を支援する取り組みであり,《予防的視点による保健師の専門性発揮》《虐待予防に向けた重層的支援》の2つのサブカテゴリーから構成された.

保健師は「産後の養育能力不足を予測し必要な支援を関係部署と協議する」等〈問題発生に備え先回りして手を組み支援環境を整える〉ことを行っていた.また,虐待を防ぐために母子への直接的支援を行い,対象をより理解した上で「母親の意向を尊重した支援がなされるよう関係機関へ連絡調整する」等〈虐待予防の直接的支援と調整的役割を遂行する〉ことを行っていた.協働することでこのような《予防的視点による保健師の専門性発揮》がより実施しやすくなっていた.

さらに,「虐待予防と危険回避に向けた支援を協働で行う」「母親のできることに着目し養育意識を高める支援を協働で行う」等〈危険回避と養育向上の支援を協働で行う〉こと,〈関係機関と重層的に虐待予防の支援を行う〉こと等により《虐待予防に向けた重層的支援》がなされていた.

5) 【協働支援の評価】

このカテゴリーは,連携体制や対象者の状況等から協働支援を評価する取り組みであり,《協働支援の評価》の1つのサブカテゴリーで構成された.

保健師は,「母子の週末対応における協力体制の不足を内省する」「情報共有を図ることで良好な連携が取れたと判断する」等〈連携体制を振り返る〉こと,〈対象の状況から協働支援を評価する〉ことを行っていた.

6) 【円滑な連携に向けた土台づくり】

このカテゴリーは,協働の土台となる取り組みであり,《普段からの信頼関係づくり》《協働に向かう意識の醸成》の2つのサブカテゴリーから構成された.

保健師は,関係機関との連携の重要性を認識し「関係機関を交えた会議を定期的に開催する」等〈普段から顔の見える関係性をつくる〉ことを行っていた.また,「関係機関に対し日ごろから誠意ある対応を心掛ける」「お互いに感謝の気持ちを伝え関係機関と良好な関係を築く」等〈誠意ある対応により信頼関係を築く〉ことを意識的に行っていた.このように関係機関との《普段からの信頼関係づくり》を大切にしていた.

一方,「協働支援の達成感により次の支援への意欲が湧き上がる」「協働支援を行った関係者に対し『支えられた』『助けられた』と感謝を抱く」等〈協働の成果と心理的サポートが次の支援への意欲を増大させる〉といった保健師の気持ちの変化がみられた.また,「子どもの生命を守り健全な育成を促す役割があると認識を強める」等〈母子保健に対する保健師役割の自覚を強める〉変化がみられた.このように子ども虐待ハイリスク家族の支援に対して《協働に向かう意識の醸成》がなされていた.

IV. 考察

本研究では,保健師が行う子ども虐待ハイリスク家族への関係機関との連携の取り組みとして6つのカテゴリーが抽出された.これらの結果を踏まえ考察では保健師の連携の取り組みの特徴,関係機関との連携促進,連携の成果について述べる.

1. 子ども虐待ハイリスク家族の支援における保健師の連携の取り組みの特徴

本研究の結果,カテゴリーの一つに【連携相手と手を組む】が抽出された.有本ら(2018)は,子ども虐待支援には経験年数によらずどんな保健師でも困難感を抱えていると述べている.本研究においても保健師は,子ども虐待ハイリスク家族の支援において対象者の拒否的な態度や攻撃的な言動に対応しなければならないことを予測し,負担感や困難感が生じる可能性があると判断して,各機関の〈専門性や過重な役割の観点から役割分担の必要性を判断する〉という取り組みを行っていたと考えられる.

また,子ども虐待ハイリスク家族の背景には,心身の不調等の保護者側の問題,育てにくさがある等子ども側の問題,さらに経済的困窮等の養育環境の問題等多様な問題が複数存在していると言われている(日本子ども家庭総合研究所,2014).そのため,保健師は,複雑で多様な問題に対し一つの機関の支援では解決に至らない場合が多いと考え〈対象のニーズに即した連携機関を検討する〉,〈専門性や強みを生かした役割を明確にする〉等,課題解決に有効な関係機関を判断し,その機関と連携することにより,対象者にとってより効果的な支援を提供しようと考えていたと思われた.

このように,《対象・支援者双方向からの連携の必要性の判断》を行い,保健師自らが核となり早期にかつ積極的に【連携相手と手を組む】ようにしていたと考えられた.

さらに,保健師の連携の特徴は,関係機関と対象者の間で行う【下地を整えつなぐ】ことであると考える.永谷(2009)は,対象者は自ら相談することが少なく,支援に対して拒否的な態度を示す場合が少なくないと指摘している.保健師は,このような対象者の特徴を理解した上で,関係機関のサービスを利用したときの利点等を具体的に母親に説明し〈社会資源の主体的利用に向けて対象の気持ちを動かす〉ように働きかけていたと考えられる.このような保健師の支援によって,対象者にとって有効な機関と早期につながり,それが具体的な課題の解決になり,対象者自身の心身の安定につながっていくと考えられる.また,保健師は,関係機関に母親の性格特性等を事前に伝えていた.これは,関係機関側が対象者を安心して受け入れ,課題の解決に確実につながるよう関係機関側の準備を促し整えるために保健師が行った調整的な取り組みと考えられた.

このように,保健師は対象者と関係機関が円滑につながるため《つなぐための下地調整》を対象者側と関係機関側,双方に丁寧に行い,より効果的な支援を目指していたことが示唆された.

2. 関係機関との連携促進への示唆

子ども虐待は外部から見えにくい場所で起きるためその発見が課題とされる(小穴ら,2016).これは,ハイリスク家庭でも同様であり,虐待を未然に防ぐという点ではハイリスクの家族を早期に発見する意義はより大きいと言える.発見に関わるサブカテゴリーとして本研究では《ネットワークを活かした対象把握》が抽出された.親子の普段の様子を知っている保育士,身体状態を把握している医師など親子との接点,対象を見る視点は職種により異なる.つまり,子ども虐待ハイリスク家族を発見するのは保健師のみでは困難であり,多様な職種,関係者の気づきが不可欠である.本研究において保健師は,様々な関係者からの情報を受け,さらに〈ネットワークを介してより詳しい情報を掴む〉ことを行っており,この対象把握の段階から連携がなされていたと解釈された.よって,住民も含め多様な関係者に対して子ども虐待予防への関心を高めることや,保健師が日頃から豊かなネットワークを築き,その間口を広げておくことは関係者との連携を促し,ハイリスク家族の早期発見につながると考える.

本研究では,関係者と〈普段から顔のみえる関係性をつくる〉,〈誠意ある対応により信頼関係を築く〉という2次コードが抽出された.栗原ら(2012)は,連携を形成・継続するには,関係機関が相互の信頼関係を築き人間関係を良好に保つことが必要であるとしている.ハイリスク家族への支援は,即座に関係機関との連携が必要となる場合も少なくない.普段の活動から信頼関係を形成しておくことは関係者間の壁を低くすることになり,情報共有や役割分担をしやすくする.そのため《普段からの信頼関係づくり》は関係者間の連携の円滑化につながり,子ども虐待ハイリスク家族への支援を成功させる上でも大きな意味を成すと考える.

さらに,栗原ら(2012)は,連携することで一つの職種では解決できなかったことが解決でき,この結果,職員の士気があがったと記述している.本研究では〈協働の成果と心理的サポートが次の支援への意欲を増大させる〉ことが示され,このような《協働に向かう意識の醸成》の根底には,協働支援の達成感や関係者への感謝の気持ちなど,連携を通して得られた保健師の肯定的な思いがあった.また,関係機関の間で《後方支援の授受》がなされていることも示された.子ども虐待ハイリスク家族の支援は困難感を伴う仕事であるが,支援者同士の心理的サポートは,支援上の困難感を軽くすると考える.これらのことから,協働に向かう意欲を支える上では,関係機関との協働の取り組みが,達成感や感謝の気持ちなど肯定的なフィードバックとなって保健師にかえってくること,職場内外におけるサポートや支援者同士が信頼し合える環境の重要性が示唆された.また,関係機関との《普段からの信頼関係づくり》や《協働に向かう意識の醸成》は,円滑な連携の土台となり,子ども虐待ハイリスク家族を支援する際の次なる連携の取り組みを促進させると考えられた.

V. 研究の限界及び意義

本研究に協力を得た保健師は所属自治体や人数等が限定されているため結果の一般化には限界がある.また,中堅後期から管理期にある保健師であったことから本結果の取り組みを,その質を担保した状態で新任保健師に求めることは困難である.しかし,経験を積んだ保健師から導かれた本結果は,母子保健を担う保健師にとって関係機関と連携して子ども虐待ハイリスク家族を支援する際の参考となる.また,行動レベルで示した2次コードは新任保健師等にとって連携の際に取り組む事項の参考の一助になると考える.

VI. 結語

子ども虐待ハイリスク家族に対する市町村保健師が行った関係機関との連携の取り組みを質的帰納的に分析し6つのカテゴリーが抽出された.

保健師は連携の必要性を的確に判断し【連携相手と手を組む】取り組みを積極的に行っていた.また,複雑な背景をもつ母子と関係機関が円滑に,確実につながるよう【下地を整えつなぐ】ことを丁寧に行っていた.関係機関が連携して虐待ハイリスク家族を支援できるよう【協働支援の体制をつくる】取り組みをし,【虐待予防に向けた協働支援】【協働支援の評価】を実施していた.さらに,必要時即座に連携できるよう日頃から関係機関と信頼関係を築く等【円滑な連携に向けた土台づくり】を行っていた.

保健師は,効果的に連携を行うため日頃の活動から信頼関係構築を図るように心がけていた.また,困難感を伴う支援に対し職場内外からのサポートが重要であると示唆された.

謝辞

本研究を行う上で調査にご協力いただいた保健師の皆様方に深く感謝申し上げます.また,調査を受け入れていただいた保健師の上司の皆様,研究協力者の保健師をご紹介いただいた保健師の皆様に心より御礼申し上げます.

本研究に開示すべき利益相反はない.

文献
 
© 2020 日本公衆衛生看護学会
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