日本植物病理学会報
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いもち病罹病イネ株内におけるいもち病菌のPot2 遺伝子型およびレースの垂直分布
生井 恒雄上林 千裕芦澤 武人
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2006 年 72 巻 2 号 p. 101-108

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抄録

いもち病罹病イネ1株内のいもち病菌個体群の垂直分布実態を明らかにする目的で, 山形県庄内地方の地理的に離れた2ヵ所の水田で自然発病した各々2株の各種部位に形成された病斑からいもち病菌を分離し, Pot2 遺伝子型と病原レースの垂直分布を調べた. 供試イネ品種は ‘はえぬき’ で, 第7葉, 第10葉および止葉の葉身, 穂首, 籾の病斑から単胞子分離した菌株を解析した. その結果, 遺伝子型については, 一方の水田, 立川町大中島の1株からは4種の遺伝子型の菌が得られたが, 残りの株には2種類の遺伝子型が分布した. また, 他方の水田, 朝日村上平からの罹病株ではそれぞれ4種類, 7種類の遺伝子型の菌が分布するなど, イネ1株内に分布するいもち病菌の遺伝子型はかなり多様であることが示唆された. それぞれのイネ株における分離組織の位置と分離菌株の遺伝子型をみると, 籾, 穂首, 止葉からの分離菌の遺伝子型は下位の葉身からの分離菌のそれと異なり, 遺伝的に多様な菌株が分布する傾向がみられた. レースに関しては, 一方の水田, 立川町大中島の2株からの分離菌株すべてがレース007.0に属した. しかし, 他の水田, 朝日村上平の1株に分布したいもち病菌はレース007.0のみであったが, 他の株からは, 複数の組織, 同一病斑からもレース007.0と037.1の2種類の菌株が分離された. 以上から, 罹病イネの株内に分布するいもち病菌の個体群構成は遺伝的に多様であり, 1株内のいもち病菌遺伝子型の垂直分布の実態は株ごとに異なりかなり複雑であることが示された.

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© 2006 日本植物病理学会
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