日本植物病理学会報
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原著
株枯病菌を接種したイチジク苗木における病徴の進展過程(2)宿主細胞の防御反応と内部病徴に関する解剖学的検討
隅田 皐月梶井 千永森田 剛成黒田 慶子
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2016 年 82 巻 4 号 p. 310-317

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抄録

イチジク株枯病は,我が国のイチジク栽培地域で蔓延している病害であり,枯死を引き起こす.本研究では,株枯病菌接種苗木の光学顕微鏡観察により,宿主細胞内での本菌の分布,本菌が宿主細胞に及ぼす影響について検討し,通水機能停止の過程について考察した.接種7日後個体では,接種部において菌糸が接種穴と隣接する道管およびその周囲の軸方向柔細胞,放射柔細胞,木部繊維内に観察された.二次代謝の活性化に起因する着色物質は,菌糸の周囲の軸方向柔細胞,放射柔細胞内および道管と木部繊維の細胞壁にみられた.接種部より5 cm離れた部位では,菌糸が道管および周囲の柔細胞に局所的に観察された.着色物質の蓄積も,接種部と比較するとごくわずかであった.萎凋開始個体の接種部では,肉眼観察で確認された木部の変色部において,菌糸が道管,木部繊維,軸方向および放射柔細胞,髄の細胞内に観察された.また,菌糸が認められた細胞およびその周囲の細胞内に,黄色~褐色の着色物質が観察された.形成層細胞内には,核が存在しているものが多く観察され,細胞の生存が認められた.従って,形成層の壊死を経て葉の萎凋が起こったとは考えられない.森田らの通水機能の解析と,本研究による内部病徴の細胞レベルの観察結果から,本菌接種によるイチジク枯死の仕組みは,以下のように推測される.①接種穴から,本菌の菌糸が主に道管を介して伸長する.②道管周囲の柔細胞類は防御反応を起こし,黄~茶褐色の物質を生産して分泌する.③本菌の分布拡大により変色部が拡大し,接種部付近の横断面で通水停止部分が増加する.④葉に届く水分量が著しく減少し,萎凋症状が発現して枯死に至る.

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