日本植物病理学会報
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「マサキ」の新炭疽病に就て(豫報)
逸見 武雄
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1918 年 1 巻 1 号 p. 9-15

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抄録

昨大正五年八月農學士菅谷忠次郎君東京に於て「マサキ」の病葉を採集し同年九月鏡檢の結果炭疽病の一種なるを知りて予に標本を分與し、之が研究を慫慂せらる、然れども當時病原菌既に死して分離培養する能はざるを遺憾とせり、更に同年十二月靜岡縣農會鶴田章逸君より同一菌の寄贈を受け再び分離を試みしが、其際乾燥標本なるに係はらず特殊の方法下に能く純粹培養に成功し得たり。
從來「マサキ」の炭疽病菌として記載せられたるもの三種にしてGloeosporium frigidum SACC., Gloeosporium Evonymi BR. ET CAV. の二種は伊太利にて發見せられ、 Colletotrichum Griseum HEALD ET WOLFの一種は米國「テキサス」に産す。本炭疽病々原菌は胞子の巾が長さに比し著しく大なるの一事を以て本邦産各菌と全く其赴を異にし、又上記三菌とも自ら相隔る遠し、故に予は本病原菌を新種と斷定しGloeosporium evonymicolumと命名せり。
本病は「マサキ」の葉に發生し大小不規則の病班を形成す、菅谷氏採集の標本によれば健全部との境界著明ならず周圍より稍々褪色せる病班の表面には不規則に配列せる胞子層小黒粒點をなす。鶴田氏標本によれば病斑灰白色にして健病境界は褐色なり、但し該病斑には他菌の混生せるものあるにより果して本病原菌の作用に基くや疑問とす。予は純粹培養を以て數囘接種試験を施行し以て次の結論を得たり。一、本菌は寄生性強烈にして容易に健葉を侵襲し得。二、本菌は「マサキ」のみならず「ツルマサキ」をも侵襲し得。三、本菌は接種試験によりて稀に稍々褪色せる無縁病斑竝に胞子層を形成すれども、多くは全葉を直ちに乾燥枯死せしめ胞子層の成熟なくして落下せしむ。天然に於ても斯くの如きもの多きは想像し得る所にして其損害決して尠少にあらざるべし。
本病原菌の胞子は橢圓體にして兩端圓く長さ14-20μ巾6-8.4μ單胞にして厚膜且つ透明なり。病葉を過濕に保存せば胞子層の周圍に硬毛を發生すること多し。本菌の生理學的性質に就ては近く公表することとし茲には省略す。

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