日本植物病理学会報
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相思樹銹病菌Maravalia hyalospora (SAW.) DIET.の寄生性に關する研究
III.夏胞子の感染に對し抵抗性を異にする假葉各部の細胞學的研究
平根 誠一
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1940 年 10 巻 2-3 号 p. 171-185

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抄録

相思樹銹病菌夏胞子に對し,抵抗性を異にする假葉各部分間の細胞學的研究を遂行した結果
(1) 幼嫩な感受性部分に於ては
a. 附着器より氣孔を通り侵入した菌絲は,氣孔下嚢を形成し,容易に隣接細胞中に吸器を形成する。夫の後,組織中に侵入した菌絲は,一般に,周圍の柵状組織中には殆んど吸器を挿入せず,直に内方の海綿状組織細胞中に侵入し,吸器を形成しながら冬胞子堆形成迄該部に於て發達する。夫の間,寄生關係には何等不親和性を認められない。
b. 菌が寄主組織中に蔓延するも,未だ實際に吸器の侵入を蒙らない細胞は,夫の葉緑粒及光力的合成能力を漸次退化減少するも,吸器の侵入により,再び之等は復活し,益々夫等の機能は旺盛になり,寄主葉肉組織中に多量の貯藏澱粉粒を形成する。
c. 夏胞子の侵入に依り,寄主細胞は多少肥大する場合はあるも,全く増生しない。
d. 之の時代の吸器は何れも基部に頸を有して居り,掌状を呈する隣接細胞中の吸器を例外とし,一般に單一型である。而して,之の吸器は老成すると寄主細胞から誘導されたと推察される厚膜に包まれて枯死して居る。
(2) 極く幼嫩な免疫性乃至強抵抗性部に於ては,氣孔の分化不充分な爲め,菌は一般に侵入し得ず,僅かに發達せる氣孔を通じて辛じて侵入し,氣孔下嚢を形成した場合に於ても,直に枯死するか,又は吸器を形成した場合に於ても, 2-3日中に枯死する。之の際,寄主細胞も菌の侵入に對し,非常に敏感であり,直に壞死し,何れが先に枯死せるか,不明な場合も認められるも,一般に菌の枯死が早い樣である。猶,該部に於ては,附着器下の孔邊細胞及夫に連絡する表皮細胞の壞死する場合も屡々見られる。
(3) 成熟せる免疫性部分に於ては,若し附着器が形成され,寄主體中に侵入した場合には,容易に氣孔下嚢を形成するも,直に枯死するか,又は極く初期の吸器を形成するも直に枯死する。然るに,之の際,寄主細胞は菌に對して抵抗力強大にして,一般に,氣孔下嚢の周圍の細胞膜の肥厚の外,殆んど變化を認めない。
(4) 以上の如き觀察の結果は,既に報告せる寄主組織中の有毒物質の存在を尚立證し,且つ,本菌の抵抗性は全く原形質的性質のものである事を暗示して居る。
擱筆するに當り,終始御懇篤なる御教示を賜りたる松本教授に滿腔の謝意を表す。

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