日本植物病理学会報
Online ISSN : 1882-0484
Print ISSN : 0031-9473
ISSN-L : 0031-9473
土壤の低温に基く稻熱病に對する稻穗首の感受性とその解剖學的特質との關係
鈴木 橋雄
著者情報
ジャーナル フリー

1951 年 15 巻 2 号 p. 72-78

詳細
抄録

1) 本論文には異る温度の土壤に育成した稻穗首に對する稻熱病菌の接種試驗, 穗首表皮組織における本菌分生胞子の附着器形成, 侵入及び感染についての實驗並びに土壤の低温に基く稻熱病に對する穗首の感受性の増加と, その解剖學的特質との關係についての實驗結果を記載した。
2) 供試品種は抵抗性の龜治及び無芒愛國, 感受性の雄町及び穀良都の4品種, 土壤温度は15.3~28.2℃(低温區)及び16.5~34.8℃(常温,標準區)である。低温區の稻は標準區に比べて發育が著しく劣り, 出穗數が少く, 且出穗期が遅延した。
3) 低温區の稻が開花するのを待ち, 穗首に對して本菌の接種を行つた結果, 低温區は供試4品種間に殆んど差異がなく, 75~100%という高發病率を示したのに反し, 標準區は抵抗性品種が0~13.3%, 感受性品種が20~33.3%という低率を示した。
4) 本菌を接種した穗首表皮組織につき附着器形成, 侵入及び感染状態を鏡檢した結果, 附着器が形成され, 侵入を蒙つた表皮細胞數は供試品種の如何に係わらず無氣孔條における長細胞が最も多く, 氣孔條における長及び短細胞これに次ぎ, 氣孔副細胞が最も少かつたが, 感染壞疽を起した表皮細胞數の率は氣孔條における長及び短細胞が最も高かつた。又標準區においては表皮細胞の種類の如何を問わず, 抵抗性品種は感受性品種より著しく少かつたのに反して, 低温區においては兩品種間に明瞭な差異が認められなかつた。而して供試品種及び表皮細胞の種類の如何に關せず, 低温區は標準區より著しく多かつた。
5) 發病率の調査並びに附着器形成, 侵入及び感染について行つた實驗の結果, 土壤の低温は本病に對する穗首の感受性を著しく増加することが確かめられた。
6) 穗首表皮細胞の外壁及び珪化層の厚さは, 供試品種及び土壤温度の如何に關せず, 無氣孔條における長細胞が最も薄く, 氣孔條における長及び短細胞これに次ぎ, 氣孔副細胞が最も厚く, 又土壤温度及び細胞種類の如何に係わらず, 抵抗性品種は感受性品種より著しく優つているが, 低温區においては標準區におけるほど兩品種間の差異は明瞭でなかつた。而して供試品種及び表皮細胞種類の如何を問わず, 低温區は標準區より著しく劣つていた。
7) 無氣孔條における1長細胞列單位長さに散在する珪質化の明瞭な石英短細胞數を測定した結果, 標準區においては抵抗性品種は感受性品種より多かつたが, 低温區においては兩品種間に殆んど差異がながつた。而して供試4品種ともに低温區は標準區より著しく少いことが認められた。
8) 稻熱病菌を異る温度の土壤に育成した稻穗首に接種し, 發病率並びに表皮組織における附着器形成, 侵入及び感染状態について實驗した結果と, その解剖學的特質の發逹程度を比較測定した結果とは全く相符合し, 兩者間には常に例外なく逆比例的關係の存在することが認められた。このような事實から考察すると, 土壤の低温に基く稻熱病に對する穗首感受性増加の一原因は, これら解剖學的特質の正常な發逹が阻碍されることに基因するものと思われると共に, これら解剖學的特質が, 本病に對する稻穗首の抵抗性の一本質とみなし得られるという曩に著者が到達した結論を全く裏書きしているようである。

著者関連情報
© 日本植物病理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top