日本植物病理学会報
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大麦白渋病菌の穿入菌糸及び吸器と寄主細胞との関係についての観察
第5報 大麦白渋病菌と寄主組織に対する撒水の影響
桜井 寿平田 幸治
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1959 年 24 巻 4 号 p. 239-245

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抄録

1. 大麦白渋病菌の分生胞子をカバーグラス下に水で封じ, カバーグラスの一方の縁からろ紙で水を吸取り, 他方の縁から水をさして, カバーグラス下の水を取替えるようにしながら鏡検すると, 多くの胞子では始めにみられた原形質, 液胞の構造が間もなく崩れ, 内部一様に顆粒状態になつて死ぬ。胞子が肩の部分で破れたり, どこから破れたとも分らぬように爆発的に破れたり, また胞子の端にある蒂状のものがはずれて, 内容が吐出されることもある。
菌糸, 分生子梗と連結している分生胞子鎖を上述のようにして, カバーグラス下に水で封ずると, やはりみている間に, これらの一連の細胞は内部的に崩れるか, 膜が破れて死ぬ。罹病部の表皮を剥ぎとつて水に封ずると, 菌糸の先端部が破れるのがよく見受けられる。
2. 罹病葉に撒水すると, 林立する分生胞子鎖の上に大小様々の水滴がとまるが, 菌糸だけあつて分生胞子鎖がない菌叢の周辺部には水滴がとまりにくい。水滴が乾くと, その水滴についていた胞子は互いに附着して離れず, まもなく胞子は死ぬ。分生胞子鎖上の水滴は分生胞子鎖の表面を下方に伝わること少く, 下方の胞子, 分生子梗 (分生胞子母細胞) は短時日の撒水によつては死ぬことが少い。しかし撒水が1週間以上も続くと, 分生胞子鎖の下方の胞子, 分生子梗, その下の菌糸も死んで, 撒水をやめたあとで, 分生胞子鎖林立部に胞子の新成はみられない。菌叢の周辺部には新しく分生子梗, 分生胞子鎖が生じて来る。
3. 撒水により胞子が死んで互いに附着するのは, 大麦白渋病に対するリチュウム塩の作用に関する報告 (平田, 1959) で述べたように, 胞子が吸水し膨れる際に, 胞子膜の外層が破れ, 破れたあとの胞子膜面が粘着性を持つのによると考えられる。
4. 罹病株に2∼3日間撒水すると, 菌叢下の寄主組織にうすい褐変が起る。その後撒水を続けると, 褐変部は拡がり, 濃い褐色になる。この着色は表皮細胞にも内部組織の細胞にも起こり, 葉脈に沿つて褐線が肉眼的に認められることもある。
褐変が早く起こるのは, 吸器を含む表皮細胞または表皮直下の葉肉細胞とは限らず, 深層部の葉肉細胞, 維管束内の細胞, 維管束をとりまく柔細胞に早く起こることがある。気孔細胞には褐変が特に早く起こることが多く, 菌叢のあるのと反対の側の気孔細胞にも早く起こることもある。
5. 葉肉細胞が褐変する場合には, 褐変するに先立つて葉肉細胞面に黄色の粘性の小滴があらわれ, この小滴は次第に大きくなると共に褐色になる。この着色した滴に接する部分の細胞膜にまず着色が起こり, 着色部が次第に拡がる。細胞膜が全面的に着色しても, 細胞はなお膨圧状態を保つのが認められること多く, 細胞が死ぬのは細胞膜が着色し始めてから, かなりの時日を経ることが多いようである。上述のような褐色の滴を認めることなしに, 葉肉細胞が褐変している場合もあるが, まず細胞膜に着色が起こることは同様である。この着色成分は葉肉細胞から滲出したものと考えられる。
6. 4で述べたように, 撒水により菌叢部の下の気孔細胞は極めて褐変死しやすいので, 葉内における維管束→葉肉細胞→表皮細胞→気孔細胞の順に溶液が流れ, 気孔から水分が発散する流れは, 不調を来たすであろう。また菌叢下の寄主組織には, まわりの無病組織から特に多くの成分が集まるが, 撒水のために死んだり弱つた菌に吸収利用され難いために, 菌叢下の葉肉細胞の内容が過剰になることが考えられる。これらの事情が葉肉細胞の生理を乱し, 褐変死を起こす原因になることが考えられる。

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