日本植物病理学会報
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ムギ萎縮病の研究
VII. ムギ萎縮病の防除, とくに木酢液土壌散布の効果について
宮本 雄一
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1961 年 26 巻 3 号 p. 90-97

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抄録

(1) コムギ縞萎縮病ウイルス (WYMV) およびオオムギ縞萎縮病ウイルス (BYMV) の, 2種のウイルス汚染土壌に対する木酢液土壌散布の効果をのべるとともに, 従来提唱または実行されてきた防除法を再検討した。
(2) ガラス室内実験と圃場試験とによつて, 木酢液による土壌処理がムギ萎縮病の実用的防除法として好適なものであることを認めた。
(3) BYMVにより汚染された農家圃場における試験では, 木酢液の土壌散布により雑草の発生が顕著に抑制された。
(4) 4∼8倍に稀釈した木酢液を散布して3∼5日後に播種した場合 (あるいは原液散布後10日以上を経過してから播種した場合) には, 防除効果が認められただけでなく, 植物の生育も対照区のそれよりも良好であつた。
(5) WYMVあるいはBYMV汚染土壌を用いたガラス室内実験において, 供試木酢液と同一pHに調製した酢酸を同様に散布しても, 木酢液によるような顕著な防除効果は認められなかつた。
(6) 木酢原液は2∼2.8%のホルムアルデヒドとその誘導体を含んでいる。また, ムギ萎縮病をはじめ数種の土壌伝染性ウイルス病病土に対するホルマリンの消毒効果がすでに知られている。これらの点からおして考えると, 木酢液の土壌消毒効果は, 単なる土壌pHの一時的変化のみによるものではなく, ホルムアルデヒドおよび類似の含有諸物質の影響が主な原因であると思われる。
(7) 木酢液は, 農家が農閑期に自己の炭がまで, ほとんど無視できる程度の経費で, 廃煙を空冷して容易に採取できるものである。また, すでに針葉樹稚苗の立枯病およびサツマイモの根こぶ線虫病に対する防除効果が知られている点からも, 木酢液は単にムギ萎縮病のみならず, 農林業の一環作業として各種土壌病害の対策上に, 今後大きな役割を果しうるものと思われる。

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