日本植物病理学会報
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小粒菌核病によるイネの倒伏について
三沢 正生加藤 盛
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1962 年 27 巻 3 号 p. 102-108

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抄録

小粒菌核病罹病稲の倒伏と, 罹病組織の崩壊との関係について実験した。
1. 罹病稲の倒伏は, 多くの場合出穂以後にみられる。この時期においては, 罹病部では柔組織が崩壊しているものが多く, 木質化組織も表皮より分離し, 稈を構成している骨骼組織の変化が大きい。
2. 倒伏時における罹病部の細胞膜中葉ペクチン質は, 染色性が変化し, さらに溶解, 消失している場合もみられる。またセルローズでは, 粘度試験や偏光顕微鏡による観察結果から, この部のセルローズは結晶構造が全く変化し, 比粘度の低下も認められる。
3. このような罹病部における諸変化の主要因は, おそらく病原菌の分泌酵素によるものと思われる。
4. 細胞膜変質の原因物質として, 菌の分泌酵素を調べた結果, 本菌はペクチン分解酵素, セルローズ分解酵素を分泌することがわかつた。しかし両菌の分泌する酵素の作用形式には, 明らかな相違がみられる。小球菌では, ペクチンの液化型酵素およびCx型のセルローズ分解酵素が多く生成される。小黒菌では逆に糖化型のペクチン分解酵素とC1型のセルローズ分解酵素が多い。
5. 稈の倒伏抵抗性は, 稈のヤング率によつて支配される。ヤング率はまた細胞膜のヤング率と密接な関係があり, 罹病による細胞膜の変質や, リグニン化組織の分離等が稈のヤング率減少の大きな要因となつている。
6. 小粒菌核病罹病稲が倒伏しやすくなるのは, 菌の侵害による細胞膜の変質, それに連らなる稈のヤング率の減少が最大の要因と思われる。

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