日本植物病理学会報
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高級アルキル化合物の抗菌作用
I. アルキルフェノールの抗菌作用機構
上杉 康彦福永 一夫
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1967 年 33 巻 3 号 p. 168-175

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抄録

殺菌剤分子に適当なアルキル基を置換すると抗菌力が増す現象は多くの殺菌剤系列に認められている。フェノール系殺菌剤についてもこの現象は存在するが,このようなアルキル置換の意義を明らかにするために,主にいもち病菌菌系を供試してフェノールおよびp-アルキルフェノール系列化合物の菌に対する作用をペンタクロルフェノール(PCP)などの作用と比較検討した。
PCPの抗菌機作は生体内の酸化的燐酸化反応のuncouplerとしての作用であり,フェノールもこの作用が抗菌作用の一つの要因になると思われたが,p-hexylphenolなどの高級アルキルフェノールでは酸化的燐酸化反応の阻害が菌の致死要因であるとは考えられなかった。
一方,高級アルキルフェノールは生育阻止濃度で糖やアミノ酸の菌体内への摂取を阻害し,菌体内容物を外液に溶出させる作用を有し,この現象は他の抗菌機作を持つ薬剤の生育阻止濃度では見られないこと,この現象が菌に薬剤を処理後直ちに起ること,などから,菌の致死による二次的な現象ではないと思われた。また,アルキルフェノールの菌体による吸収は主に菌体の脂質部においておこる物理的な現象であり,各同族体の最低生育阻止濃度における吸収量がほぼ等しい事実などから考えて,高級アルキルフェノールの抗菌作用の機作は,細胞質膜の脂質層に吸着または分配されてその量が一定量を起すと細胞質膜の機能を失なわせるためであると推定された。

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