日本植物病理学会報
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不親和性疫病菌に侵されたジャガイモ塊茎褐変病斑部におけるリシチンの局在,および生成の時間的経過
佐藤 章夫冨山 宏平
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1969 年 35 巻 3 号 p. 202-207

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抄録

強抵抗性ジャガイモ品種「リシリ」(R1-遺伝子をもつ)を用いて,リシチン生成の時間経過と,局在を調べた。リシリ塊茎を切断してその切断面を適当時間放置すると(本実験では多くの場合24時間放置),その組織は非親和性疫病菌に対して非常に過敏感(強抵抗性)になり,ほとんどが1細胞,ときに2-3細胞で病斑の進行は停止する(接種後約10時間)。その後病斑は進展しない。かつ接種胞子濃度を適当にすることによって切断表面組織のほとんど全細胞を感染させることができるので,感染細胞層およびその隣接細胞層が切断面に平行して層化する。したがって,同一細胞集団(たとえば褐変隣接細胞)における化学変化を追求できる。
リシチンは濃硫酸によって赤く発色するので,この反応を用いて定量分析法を開発した。接種塊茎切断面組織からコルクボーラーで組織柱をぬきとり,ドライアイスで凍結させ,-30°C低温室に貯え,のち-5°Cでミクロトームで薄層スライスをつくることによって,約1.5細胞層を含むうすい切片(厚さ0.17mm)を得た。その分析結果から,リシチンは褐変細胞およびその直接隣接する細胞に局在することが結論された。注意深くカミソリで切り取った数十mgの褐変細胞で十分にリシチンを検出できたので,リシチンは褐変細胞内およびその隣接細胞の両方に局在し,それ以外の細胞にはほとんど存在しないと考えられる(Fig. 5のその他の細胞層におけるリシチンの少量の存在は材料の不均一によると思われる)。
リシチンは接種10時間後にはじめて検出され,その後約12時間以内では直線的に増加する。この直線的増加を外挿できるものならばそれ以前には存在しないことになる。また本分析法は感度が非常に高い(5ml濃硫酸中に1-2μgで検出できる)ので10時間以前にはほとんど存在しない可能性が強い。リシチンは切断16-24時間後に接種した場合(したがって強度に抵抗性)には2-3日後に最高に達し,その後急速に減少する。これに反して切断直後に接種した場合(したがって病斑はいくらか余計に進展し,前者より弱い)にはリシチン含量は最高に達したあとでも,なかなか減少しない。

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