抄録
いもち病菌の病原性ならびに交配型の遺伝様式を解明するため,完全世代の利用を試みた。実験には,完全世代を良く形成するウィピングラブグラスから分離した菌株(以下ウィピングラブグラス菌)とシコクビエから分離した菌株(以下シコクビエ菌)とを供試した。ウィピングラブグラス菌(あるいはシコクビエ菌)同士の交配からは交配親株と同じ病原性のものだけが得られたが,病原性を異にするウィピングラブグラ冬菌とシコクビエ菌との交配では病原性の分離が確認された。すなわち,両菌株の交配によって得られた子のう胞子(計325)には,ウィピングラブグラスにのみ病原性を示すもの(136),シコクビエにのみ病原性を示すもの(127),両方に病原性を示すもの(26),両方に病原性を示さないもの(36)が認められた。ウィピングラブグラス(あるいはシコクビエ)に病原性を示すものと示さないものの比率がほぼ1:1であった事から,これら寄主に対する病原性はそれぞれ一個の異なる遺伝子によって支配されているものと推察される。また,非交又型のものが圧倒的に多く分離された事,一部交又型のものも得られた事から,これら二つの遺伝子は相同染色体上の異なる座に位置しているものと推察される。交配型はこれら病原性とは独立に遺伝した。これら病原性,交配型を支配している遺伝子が染色体上に位置しているという推定は,同一子のう内の8個の子のう胞子を検定した結果からも確められた。