日本植物病理学会報
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コロナチンの生理活性機構に関する研究
ジャガイモ塊茎組織の細胞壁の伸展性と肥大に対するコロナチンの影響
酒井 隆太郎西山 幸司市原 耿民白石 久二雄坂村 貞雄
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1979 年 45 巻 5 号 p. 645-653

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抄録

イタリアンライグラスかさ枯病細菌Pseudomonas coronafaciens var. atropurpureaは病徴発現毒素としてコロナチンを生産する。一方コロナチンは生理的濃度で,特異的にジャガイモ塊茎組織の異常肥大を起こす作用を有する。これらのコロナチンの生理活性は本病の病徴発現機構と関連するように思われる。本報告では,コロナチンによるジャガイモ塊茎組織の肥大機構を追求した結果を報告する。ジャガイモ切片にコロナチンを与えると3日後より組織の肥大が起こる。これは処理面下数細胞層の細胞が著しく肥大することによる。
コロナチンが細胞壁の弛緩に作用するかどうかを検討するため,細胞壁の可塑性を測定した。その結果コロナチン処理ジャガイモ塊茎組織の可塑性は増加し,壁圧によって押えられていた吸水が増大し,細胞の肥大を促進したと考えられた。またコロナチンによる水分吸収がエネルギー代謝阻害剤sodium azide, fluoroacetateおよびdinitrophenolにより抑制される。これはコロナチチンの細胞壁に対する作用は呼吸代謝と関連すると考えられる。またコロナチンによる細胞壁可塑性の増加がactinomycin-Dおよびcycloheximideで抑制されることから,核酸および蛋白の合成が細胞の肥大に必須の条件であると考えられる。一方コロナチン処理による細胞の肥大に伴って細胞内澱粉粒の消失が認められる。以上の結果より,コロナチンによるジャガイモ塊茎切片の肥大は,まず細胞壁の弛緩が起こり,その後澱粉粒の分解が始まり,細胞浸透圧の増加に伴って吸水が増加し細胞が肥大するためと結論された。

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