日本植物病理学会報
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リンゴ腐らん病病斑組織の季節的変化に関する解剖学的観察
田村 修斎藤 泉
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1982 年 48 巻 4 号 p. 490-498

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抄録

リンゴ腐らん病病斑の進展の過程を時期別に病態組織学的に観察した。リンゴ樹の休眠期には,病原菌は樹皮組織内を単独の菌糸で進展し,菌糸進展部に先行した組織では細胞の収縮と軽微な褐変が認められた。5月にも単独菌糸が樹皮組織内を進展するが,菌糸進展部における寄主組織の褐変は顕著となった。気温が高くなるにつれて,組織の褐変はさらに顕著となり,健全組織との間の2∼3層から数10層の細胞壁はリグニン化し,さらにその外側に傷痍木栓組織が形成された。このような一連の変化によって,病原菌の菌糸は集合しやがて木栓組織を突破する。菌糸の集団的な樹皮組織の進展と木栓組織の新生が繰り返され,その結果,病斑の進展は緩慢になる。最も樹体活性の高い8月には菌糸の進展に対し寄主組織は速やかに反応し,3∼7層の厚膜コルク化細胞より成る木栓組織を形成し,これにより病原菌の進展はほぼ完全に阻止された。しかし,10月になると,罹病組織と木栓組織の間隙内で増殖した集塊状菌糸は木栓組織形成の不十分な部分から健全組織内へ再び進展した。
リンゴ休眠期に人為的に樹皮に付傷した場合,5月中旬まで木栓組織の形成は認められないが,夏期に付傷したときは2週間後に木栓組織が形成された。すなわち,傷痍木栓組織の発達の速さや程度は季節によって著しく異なり,それによって発病およびその後の病斑進展が左右される。

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