1983 年 49 巻 5 号 p. 659-669
おもに導管内で増殖するイネ白葉枯病菌と柔組織を侵すイネ条斑細菌病菌の両細菌をイネ葉組織の細胞間隙へ強制的に注入し,宿主-病原菌相互関係を電顕観察により検討した。イネ白葉枯病菌注入3日後の組織では,細菌に接する宿主細胞壁の繊維状化とその遊離,および細胞壁の部分的剥離などが認められた。また,宿主原形質膜はしばしば細胞壁から遊離して小胞状を呈し,また,その単位膜構造が不明瞭となっていた。本細菌の注入7日後の組織においては,著しく繊維状化している宿主細胞壁がしばしば観察され,また,細菌はある程度増殖していたが,宿主細胞間隙で繊維状物質に包まれて形態的に異常を呈しているものが多く観察された。さらに,本細菌の注入後14日目になると,多くの細菌は変性した宿主細胞壁および細胞質に由来すると思われる多数の顆粒状物質に包まれて形態的に異常を呈していた。イネ葉柔組織に寄生性を持つイネ条斑細菌病菌は,注入14日後まで繊維状あるいは顆粒状物質に包まれることなく,宿主細胞を著しく変性させながら旺盛に増殖を続けた。これらの観察結果より,イネ白葉枯病菌を注入したイネ葉柔組織において観察された繊維状物質および顆粒状物質は,宿主細胞に由来し,本細菌に対する抵抗反応に関与する物質であることが示唆された。