日本植物病理学会報
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継代回数を異にするイネカルスの植物病原糸状菌接種に対する反応
内山 武夫加藤 博美伊藤 正子小笠原 長宏
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1984 年 50 巻 2 号 p. 176-188

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抄録

カルスの継代による性質の変化は良く知られた現象である。筆者等はイネカルスで継代による再分化能の低下を確認すると同時に,いもち病菌を初め数種の植物病原糸状菌を,継代回数を異にするイネカルスに接種して,それらが示す反応について調べた。
イネカルスへ接種されたいもち病菌の侵入と生育が,誘導初期カルス(月1回の割合で継代5回までのもの:F-カルスと略す)および長期継代カルス(2年以上継代したもの:M-カルスと略す)共に認められた。しかし,イネには病原性を示さない植物病原糸状菌接種に対しF-カルスは抵抗反応を示した。
これはF-カルスが菌の接種により胞子発芽阻害物質を生成する為と推論された。しかし,その作用は静菌的で弱かった。
フェノール性物質の量的変化を調べたところフェニールアラニンアンモニアリアーゼ活性の増大にもかかわらず,その顕著な増加は見られなかった。また,菌の接種による酸素吸収量の変化も認められなかった。
いもち病菌の生産する毒素であるテヌアゾン酸に対する反応は,その濃度の増加と共にカルスは生育阻害を受けるが,イネ葉上で見られるような変化をカルス上に認めることは出来なかった。
これらの結果から,F-カルスにおいても異物拒否反応は弱く,菌の種類にかかわらずそれが有する侵入力により容易に侵害されることが明らかとなった。

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