日本植物病理学会報
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タバコモザイクウイルス・トウガラシ系統の弱毒ウイルス作出とその利用
後藤 忠則飯塚 典男小餅 昭二
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1984 年 50 巻 2 号 p. 221-228

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抄録

ピーマン品種「東京ししとう」から分離されたTMV-Pに属する1分離株(P6)を,Holmesの方法に従って熱処理を繰返し,弱毒ウイルスPa18を作出した。弱毒株Pa18は,ピーマンに対し軽微な病徴を現わすだけで,かつ強毒株P6に対しほぼ完全な干渉効果を示した。この干渉効果はPa18株接種10日以後に有効となった。しかし,TMV-トマト系統(P12株),黄斑系統(PY株)およびトマト系統とトウガラシ系統の中間的な性質を有するP2株には干渉効果が完全ではなかった。弱毒株Pa18によるピーマンの病徴は長期間にわたって微弱であった。またPa18株を更に局部病斑法で分離してもピーマンの病徴が異なる分離株は現われず,本弱毒株の性質は安定していた。弱毒株Pa18は5科24種の植物に感染し,宿主範囲は強毒株と一致したが,Nicotiana megalosiphon, N. benthamianaおよびPhysalis floridanaを除いたいずれの植物もPa18株による病徴はきわめて軽微であった。圃場でのピーマンのモザイク病防除への利用を試みた結果,本弱毒株Pa18による防除効果は顕著であった。すなわち,強毒株P6接種区のピーマンの生育は無接種区よりも著しく劣ったが,弱毒株Pa18接種区は無接種区とほぼ同等であった。強毒株P6接種区の収量は無接種区よりも約36%減少したが,弱毒株Pa18接種区では無接種区とほぼ同等であった。Pa18とP6株重複接種区の収量は無接種区より約18%減少したが,強毒株P6接種区よりは21.6%も増加した。更に,強毒株P6による果実のモザイク症状は外観品質を低下させるが,弱毒株Pa18は強毒株P6による果実のモザイク症状の発現を著しく抑制した。以上のことから,本研究によって作出された弱毒株Pa18は,TMVトウガラシ系統によって起きるピーマンのモザイク病の防除に十分利用が可能で,実用性が高いと考えられた。

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