抄録
ツバキ(Camellia japonica),ワビスケ(ツバキの近縁植物)およびC. granthamianaに特異な抗菌性成分がみいだされた。この活性成分は,これらの植物の葉や花弁を10倍量の水とともに,磨砕するか,120C 5分間加熱することによって容易に抽出され,この抽出液を等量混合したジャガイモ・ショ糖培地上で,多くの糸状菌の分生胞子の正常な発芽や菌糸の伸長が阻害された。すなわち,Pyricularia oryzae, Cochliobolus miyabeanusなどの胞子は,ほとんど発芽せず,Pestalotsia longiseta, Gloeosporium theae-sinens, Diaporthe citri, Botrytis cinereaなどの胞子は,それらの発芽管もしくは胞子自体が風船状に膨化して正常な菌糸を伸長せず,Alternaria kikuchiana, Alternaria maliなどの胞子は,発芽しても菌糸の伸長が抑制された。ツバキ葉抽出液から,この抗菌性成分として分子式C55H86O25 (MW=1146)およびC53H84O24 (MW=1104)の2つの化合物を単離精製し,camellidin IおよびIIとそれぞれ命名した。両化合物ともトリテルペノイド系サポニンであって,前者の方が作用力は強かった。ツバキなどに存在する抗菌性サポニンは,糸状菌感染に対するこれら植物の抵抗機構に関与しているものと推定された。